おしゃべりトラベリ(会話)「―絵を、お描きになっていたことがあるんですよね、榎木津さん」
「どうしてお前が知っているのだ、バカオロカ」
「いやあ和寅さんか中禅寺さんでしたかねえ。お聞きしまして」
「はあ、べちゃくちゃと、お前達はおしゃべりをしなくちゃ生きていられないのか」
「はあ、まあ僕はこれが唯一の取り柄ですから。それで―ここにはその作品はないんですか?もうお描きには」
「ない」
「そうですか。いやあ残念ですね、一度くらい拝見したいと」
「だめ」
「駄目ですか」
「お前はだめ」
「えッ、どうしてですよ」
「見てどうするのだ」
「純粋に興味がありまして」
「純粋ィ?」
「ええと」
「お前、まさか売って自分が儲けようなんて思っちゃいないだろうな」
「ま、まさか、そんな、ありませんよ。僕は純粋に」
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