「暑いねえ」
「……ん」
通りに面した商家の軒先で重雲はうずくまり、僕は柱に背を預けた。水筒の茶は既にぬるくてまずい。一口飲んだそばから、汗が滴り落ちて石畳を濡らす。
終わりかけの夏が、最期の力を振り絞って熱波を放出しているようだった。太陽は薄い雲の影に隠れていたものの、纏わりつく湿気がひどく不快だった。商会の屋敷から大通りまで出てきただけなのに、重雲はもうぐったりしているし、僕もこれ以上先に進む気にはなれなかった。
しゃがみ込んでいた重雲が、僕のフリルの袖の端を掴んだ。暑さで頭が朦朧としているのだろう、幾分か幼い様子で、菓子でもねだるようにくいくいと引いてくる。
「行秋……」
「どうしたんだい? もう帰る?」
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