粧い その日両面宿儺は珍しく機嫌が良かった。
昨晩、臨月間近の妊婦の腹を裂いて取り上げた胎児が骨まで柔らかくそれは素晴らしい歯応えで、更に女の腹の奥に秘されていた胎盤が大変な美味だったからである。
腹を抉られ我が子を目の前で平らげられて発狂した女の叫びは耳を劈くほど煩わしかったが、それを許せるほどにその肉は甘く外界の穢れを知らぬ血は瑞々しく溢れて味蕾を刺激した。
その喜びあってか常ならば都人の好むような煌びやかで豪奢な装いになど興味がなかったのが、この時ばかりは自分自身を可愛がってもよいではないかといつになく寛容さを見せているのだ。
天上天下唯我独尊の塊と言へど、不思議なことに欲に関しては加虐欲と食欲を除いた他は(非術師と比較してしまえばいずれも強欲の類に属しているが本人からしてみれば)慎ましくある。
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