シャッシャッシャッと小気味良い音だ。水をかけて洗い流し、ためつすがめつ主が見つめののは刃である。と、いっても、量販店で購入できる包丁だが。
「こんなもんかな」
たいした目利きもできないので、作業を切り上げた。研いだ包丁や砥石を片付ける。そばで恍惚としている亀甲貞宗を無視しながら。
「あぁ……ぼくも、その手で研がれたい……」
「素人の研ぎに何を言ってるんだ、国宝」
作業は終わったので、無視モードは解除した。
「しかし、筋がいい。きっといい師を持ったのだろう」
「お父さんだよ」
「それはさぞや高名な研師!」
「どこにでもいるサラリーマンだよ。どれだけ色眼鏡かけて贔屓目でみてるの」
「ありのままのぼくに触れられ……研がれたい……」
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