彼と此の渡殿に出てくるひと
・コーシャ
真面目で不器用、清廉で潔癖。嘘はつかないしつけない。ヴォルフのことはよくわからないけど、その上で信頼出来る。
・ヴォルフ
嘘つき。汚れ役。
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「それだけでいいのか?」
支度を済ませた途端、見計らったように声を掛けてきたのは流石としか言いようがない。抑揚も緩急もない音程同様に感情がさほど乗らないそれは、まさしく声を掛けるためだけの言葉だろう。
答えに関心は無かろうが、応えない理由も特に見当たらなかった。
「多ければいいということもない、と思う」
「ああ、身軽なのはよいことだがな」
声の主…ヴォルフは、先程俺の部屋にやってきてから、持参した本を今の今まで静かに読み続けていた。勝手に窓辺へ移した椅子に座り、俺に背を向けていたにも関わらずこうなのだから、相変わらず勘がいい。
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