ばさり、と真白い翼を羽ばたかせ、白亜の城の外壁を巡る。
大きな翼は夜闇に浮いて目立つことこの上無いが、生まれたときから携えているこの翼の扱いを、キリトはよくよく熟知していた。羽音は最小限に、風の流れを捉え、最短最速で目的地へと翔ぶ。小さなバルコニーに降り立って、そっと室内の気配を探った。
音を殺して窓を開け、部屋の中へと忍び込む。中央に備えられたベッドに近づき、天蓋の中で眠るその人の顔を覗き込んだ。
月光の淡く差し込む薄暗い室内で、彼の柔らかな亜麻色の髪が鈍い金色に沈んでいる。なめらかな頬は血の気を失っていっそう青白く、まるで生気を感じられなかった。
天界に夏の盛りが訪れる頃。幼馴染みのユージオは、毎年決まって体調を崩すのだ。
2008