下賤屋の潔癖 煌びやかなビル街は内装まで華やかだったけれど、大概便所にまでは気を遣ってなどいないものだ。ウォシュレットの付いていない寒々しい個室にDJを押し込んで、外から見えないように立ち塞がる。磨りガラス戸の向こうではネオンライトと喧騒と欲望が渦巻いて、それが一層この便所の粗末なつくりを際立たせていた。剝き出しのコンクリートにはみ出た漆喰。水道管が剝き出しの手洗い場。DJが背後で苦し気に呻いた。便器に顔を突っ込んでいる色男を、見たくないと思うのは、別にこの男を憐れんでのことではない。
「DJ、大丈夫~?」
「けほ、ん、だいじょぶそう、かな」
DJは少し舌足らずに言った。レバーを引いて水を流すと、吐瀉物が渦に飲まれて消えていく。胡乱な目をしたDJは、ペーパーを巻き取って座面と蓋をおざなりに拭き、もう一度水を流す。首の後ろと両脇のあたりに、ぞわぞわと怖気が走った。鼻孔が少しだけ饐えた臭いを嗅いで、咄嗟に息を止める。水道で口を濯いでいたDJは、こちらを向くと、土気色をした顔で笑った。
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