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    お箸で摘む程度

    @opw084

    キャプション頭に登場人物/CPを表記しています。
    恋愛解釈は一切していません。

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    POIPOI 26

    お箸で摘む程度

    MOURNING元同室 生徒会選挙の別Ver.
    .昼休みのカフェテリア、注文口まで続く長い列はのろのろとしてちっとも進まない。ヘッドフォンから流れる音楽が、ああこの曲は今朝も聴いた、プレイリストを一周してしまったらしい。アルバムを切り替えることすら面倒くさくて、今朝遅刻寸前でノートをリュックサックに詰めながら聴いていたブリティッシュロックをまた聴いた。朝の嫌な心地まで蘇ってくる。それは耳に流れるベタベタした英語のせいでもあり、目の前で爽やかに微笑む同室の男の顔のせいでもあった。
    普段はクラブの勧誘チラシなんかが乱雑に張り付けられているカフェテリアの壁には、今、生徒会選挙のポスターがところ狭しと並べられている。公約とキャッチフレーズ、でかでかと引き伸ばされた写真に名前。ちょうど今俺の右側の壁には、相部屋で俺の右側の机に座る、ウィルのポスターがこちらを向いている。青空と花の中で微笑んだ、今朝はこんな顔じゃなかった。すっかり支度を整えて、俺のブランケットを乱暴に剥ぎ取りながら、困ったような呆れたような、それでいてどこか安心したような顔をしていた。すぐ起きてくれて良かった、とか何とか言ってくるから、俺は腹が立つのと惨めなのとですぐにヘッドフォンをして、その時流れたのがこの曲だった。慌ただしい身支度の間にウィルは俺の教科書を勝手に引っ張り出して、それを鞄に詰め込んだら、俺たちは二人で寮を飛び出した。結果的には予鈴が鳴るくらいのタイミングで教室に着くことができて、俺は居たたまれない心地ですぐに端っこの席に逃げたんだけれど。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGウィルとフェイス ウィルBD
    頭に浮かんだ情景をとりあえず念写してみたものの、言いようもなく“違う”ので、とりあえず上げるがのちのち下げるもの 習作に位置づけ
    甘くかがやく(習作) 甘いかがやきを彼は纏っていた。彼に降りそそぐようなそれは、本当のところは彼が放っているものだった。
     開け放たれた扉から、人や、その人が抱える料理のいい匂いや贈り物の包装紙が立てる楽しげな音が、ひっきりなしに流れ込んでくる。日の延びてきた四月終わりといえどもうすっかり暗くなったこの時間にも、ウィルを囲む食卓は日の下めいて明るい。

    「お前なぁ!もっとかっこいいやつがあっただろ!」
    「うるさい。きれいだし、ウィルはこっちの方が好きだと思ったから選んだ」

     レンが提げてきたケーキボックスに顔を突っ込んだアキラが、すぐさま持ち主に突っかかる。ウィルが目をとがらせて、グレイは驚きながらも笑う。その様子を、少し離れたフェイスは眺めていた。昼間のトレーニング後、マリオンを筆頭に連れ立ってパンケーキを食べたと聞いたのに、テーブルには溢れ返りそうなほどのスイーツが並んでいる。食事も飴色のチキンやハニーマスタードがけのポテトフライが真ん中を占めて、見ているだけで歯が溶けそうだ。つめたいレモネードで喉を潤していたら、アルミホイルの端を器用に摘んだディノが廊下から駆けてくる。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGオスカーとアッシュ ⚠️死ネタ

    レスキューと海賊のパロディ
    沈没する船と運命を共にすることを望んだ船長アッシュと、手を伸ばせば届くアッシュを救えなかったレスキュー隊のオスカーの話。
    海はあたたかいか 雲ひとつない晴天の中で風ばかりが強い。まるでお前の人間のようだ。
     日の照り返しと白波が刺繍された海面を臨んで、重りを付けた花を手向ける。白い花弁のその名を俺は知らない。お前は知っているだろうか。花束を受け取ることの日常茶飯事だったお前のことだ。聞くまでもなく知っているかもしれないし、知らなかったところで知らないまま、鷹揚に受け取る手段を持っている。生花に囲まれたお前の遺影は、青空と海をバックにどうにも馴染んでやるせない。掌に握り込んだ爪を立てる。このごく自然な景色にどうか、どうか違和感を持っていたい。

     ディノさんが髪を手で押さえながら歩いてきた。黒一色のスーツ姿はこの人に酷く不似合いだが、きっと俺の何倍もの回数この格好をしてきたのだろう。硬い表情はそれでも、この場に於ける感情の置き所を知っている。青い瞳に悲しみと気遣わし気を過不足なく湛えて見上げる、八重歯の光るエナメル質が目を引いた。つまりはディノさんが口を開いているのであるが、発されたであろう声は俺の鼓膜に届く前に、吹き荒れる風が奪ってしまった。暴風の中に無音めいた空間が俺を一人閉じ込めている。その中にディノさんを招き入れようとして、彼の口元に耳を近づけたけれど、頬に柔らかい花弁がそれを制して微笑んだ。後にしよう、口の動きだけでそう伝えたディノさんはそのまま献花台に向かって、手の中の白を今度はお前の頬に掲げた。風の音が俺を閉じ込める。ディノさんの瞳や口が発するものは、俺のもとへは決して届かず、俺は参列者の方に目を向けた。膨大な数の黒だった。知っている者、知らない者。俺を知る者、知らない者。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGグレイとジェット
    グレイとジェットが右腕を交換する話。川端康成「片腕」に着想を得ています。
    お誕生日おめでとう。
    交感する螺旋「片腕を一日貸してやる」とジェットは言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って僕の膝においた。
    「ありがとう」と僕は膝を見た。ジェットの右腕のあたたかさが膝に伝わった。

     僕とジェットは向かい合って、それぞれの柔らかい椅子に座っていた。ジェットの片腕を両腕に抱える。あたたかいが、脈打って、緊張しているようにも感じられる。
     僕は自分の右腕をはずして、それを傍の小机においた。そこには紅茶がふたつと、ナイフと、ウイスキーの瓶があった。僕の腕は丸い天板の端をつかんで、ソーサーとソーサーの間にじっとした。

    「付け替えてもいい?」と僕は尋ねる。
    「勝手にしろ」とジェットは答える。

     ジェットの右腕を左手でつかんで、僕はそれを目の前に掲げた。肘よりもすこし上を握れば、肩の円みが光をたたえて淡く発光するようだ。その光をあてがうようにして、僕は僕の肩にジェットの腕をつけかえた。僕の肩には痙攣が伝わって、じわりとあたたかい交感がおきて、ジェットはほんのすこし眉間にしわを寄せる。右腕が不随意にふるえて空を掴んだ。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGクルビュ
    秋の日のオフ、マリオンが秋服を全く持っていないレンを連れ出して買い物に行く話。
    ほんの少しシオンさんの捏造があります。
    マリオネットの秋空 輪郭を掴めない穏やかな夢が、少しずつその彩りを光の中に滲ませていって、おぼろげな風景が知らぬ間に部屋の景色へと変わっていく。目を開けたという自覚もないまま、俺はベッドの中で無機質な天井を眺めていた。
     瞼を優しく下ろそうとする眠気の誘惑に抗って、理性を叱咤し上体を起こす。枕元の時計は五時過ぎを指しているが、この明るさはどう考えてたって午前五時でも午後五時でもない。早朝トレーニングに勇んで目覚ましを仕掛け、意識の無いうちに壊したらしい、数日前そのままの時計だ。スマートフォンを確認すると、ピントのずれた野良猫の後ろ姿の上に、九時三十分の表示がある。

     今日は数週ぶりの一日オフ。ガストは普段通りに出勤したようだったが、一人で起きたのにこの時間ならば上々だ。ひとまずは顔を洗いに部屋を出る。今日こそは部屋でゆっくりと猫短編集を読み進めたい。百冊セットの文庫の山は手付かずの巻数をまだまだ残し、難攻不落の様相で部屋の片隅に聳え立っている。そのうずたかい活字の中に潜む数多の猫たちにこれから出会えると思うと、そこに山があるから登るのだと宣う登山家の気持ちにも頷けるものだ。心ゆくまで物語の山道を攻略したら、それから少しトレーニングをして、明日も早く起きられるよう早く寝よう。洗面の傍ら頭の中で一日の算段を立て、タオルを片手に部屋へ戻ろうとすると、リビングでどこからか帰ってきたらしいマリオンと鉢合わせた。
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    お箸で摘む程度

    DONEビームス兄弟
    ナイプ24話でタイムマシンが修復せず、タイムパラドックスが起きてしまった世界線のif小説。リトル・フェイスがフェイスになり、フェイスがフェイスでなくなるまでの七日間の兄弟のお話。
    決して明るい話ではありませんが兄弟間の感情の大きさについて考えています。
    one no named 張り詰めた空気の糸を、低い溜息のような音が揺らした。ぴんと張った空間に振動は波の如く伝播して、そしてそれこそが、答えだった。鉄塊は動かなかった。溜息はきっと、それを最後に生命が尽きた音だったんだろう。博士がマシンに近づいて、扉に手を掛けると、頑丈そうに見えたのにあっけないほど簡単に開く。オスカーが小さく息を呑む。

    「お兄ちゃん、おれ、おうちに帰りたい……」

     色褪せた写真から、存在したはずの過去は消えていた。



    one no named



     この世から、俺の存在は無くなった。これを一日目とする。
     沈黙のタイムマシンから再び顔を出したリトル・フェイスは、彼こそが、この世のフェイス・ビームスだった。過去に帰るはずだった彼は、帰る家をこの世に知っていた。兄をこの世に知っていた。戸籍上、フェイス・ビームスとして、七年前の二月十四日を生年月日に記されている。二十年前の記録はもう、どこにも見当たらない。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGビームス兄弟 ワンライ
    お題「ドライブ」お借りしました。アカデミー時代、父親と運転の練習をする弟の話。父親の人柄や設定の捏造が多くあります。
    男のはなし 並んだ家々の前庭の芝生が、青い直線を伸ばす間。新芽が形づくる林冠を、透かした木漏れ日が揺れる中。湖沿いのゆるいカーブに沿って走ると、父さんの手が右から軽くハンドルを正す。
     緑眩しく心地よい五月の終り、俺は金曜日の教科書を抱えたまま、車に揺られて実家へ戻った。電話を受けていた運転手は、このままお父様の方へ向かいますと、カーナビの行き先を変更している。長い陽が真西に近く沈もうとする、そのかすかな空の明るさとビル街の煌めきとの混ざり合いが、もうそろそろ夏が近いという感慨を呼び起こしたところで、父さんが後部座席に乗り込んできた。俺が席を詰めると、軽く微笑み扉を閉める。息子を見とめてその顔は、外務省の要人から父親になったらしい。運転手と二言三言話すと、思い出したように、フェイス、お前もそろそろ運転できるようになった方がいいんじゃないか、と言ってきた。その飾らない、あたたかな父親の声音。親子を乗せた自動車が、街の中を滑るように走り抜けていく。
    1999

    お箸で摘む程度

    TRAININGビームス兄弟 ワンライ
    お題「雪」お借りしました。
    ビームス家の架空の使用人目線です。雪に閉ざされた庭の話。
    ひめやかな絵画 ――その日、私が窓辺で遅めの昼食をとっておりましたとき、建物と建物、そしてその渡り廊下に挟まれた静かなお庭は、昨晩から降り続いた雪が束の間の日差しにきらきらと輝いておりました。背の高いハナミズキの枝には小さな氷の雫が震え、しばらく屋内にじっとしていたビオラの鉢は数日ぶりの外の空気に喜んでいます。うつくしい景色が阻まれるのが勿体なく、私はストーブの火を弱め、窓の結露を拭きとりました。木枠のふちに伝う水滴を追っておりますと、その影から窓の景色に飛び込んでくるものがあります。それは、ビームス家の次男坊であられるフェイスさまでいらっしゃいました。
     フェイスさまはクリーム色のダウンに薄水色のマフラーをぐるぐると巻かれ、足元は室内履きのまま、あたらしい雪の上にその小さな足跡を残してゆかれました。私が時計を確認いたしますと、フェイスさまはまだお勉強の時間であられます。私はご子息のことも頼まれておりますゆえ、フェイスさまをつかまえてお部屋にお戻ししなければなりません。けれど、うつくしいお庭にのびのびと遊ばれるフェイスさまを見ていると、その純白は壊れていくのですけれども、うつくしいお庭がいっそううつくしく見て取れまして、私はフェイスさまを止めにゆくのも、スープを飲むのも忘れ、しばらくそのようすを眺めておりました。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGベスティ ワンライ

    第33回お題「潔癖」お借りしました。
    女遊びと悪友と生理的嫌悪の話。
    ※二人のキス・フェイスの嘔吐表現があります
    下賤屋の潔癖 煌びやかなビル街は内装まで華やかだったけれど、大概便所にまでは気を遣ってなどいないものだ。ウォシュレットの付いていない寒々しい個室にDJを押し込んで、外から見えないように立ち塞がる。磨りガラス戸の向こうではネオンライトと喧騒と欲望が渦巻いて、それが一層この便所の粗末なつくりを際立たせていた。剝き出しのコンクリートにはみ出た漆喰。水道管が剝き出しの手洗い場。DJが背後で苦し気に呻いた。便器に顔を突っ込んでいる色男を、見たくないと思うのは、別にこの男を憐れんでのことではない。

    「DJ、大丈夫~?」
    「けほ、ん、だいじょぶそう、かな」

     DJは少し舌足らずに言った。レバーを引いて水を流すと、吐瀉物が渦に飲まれて消えていく。胡乱な目をしたDJは、ペーパーを巻き取って座面と蓋をおざなりに拭き、もう一度水を流す。首の後ろと両脇のあたりに、ぞわぞわと怖気が走った。鼻孔が少しだけ饐えた臭いを嗅いで、咄嗟に息を止める。水道で口を濯いでいたDJは、こちらを向くと、土気色をした顔で笑った。
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