DIVE 春の海はまだ冷たかった。水を吸った衣服に体温を奪われて、2人して歯をガチガチと鳴らしながらファピョンが暮らす古びた一軒家に向かった。
「ユン、風呂入ってけよ」
「はい。そうします。ありがとうございます」
ファピョンが浴室から持ってきたタオルを受け取り、顔を埋める。少しだけ生きた心地が戻ってくる。
「一緒に入る?」
「えっ、え、い、一緒にって」
まだ耳に水が入ったままだったかもしれない。ファピョンは何でもないような表情をしている。
「嫌か。じゃあ先入れよ」
「嫌じゃないれす」
恥ずかしい、と思う間も無くファピョンはすでに白い背中を見せている。
べちゃり。海水を吸った布の塊が古びた床板に落ちる。急いで首元のボタンに手をやるが指がもつれてうまくいかない。くく、とファピョンが喉奥で笑う。優しい手つきが伸びてきてボタンを外していった。母親に脱ぎ着を手伝ってもらっていた幼い頃を思い出す。ファピョンの首元から下腹に伝う雫を目で追う。白い肌に逆さまに刻まれた文字が痛ましくて思わず手をのばしてしまった。
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