キスの日 景光夢「今日はキスの日らしいよ」
ぽろりと彼がそう言った。
くるりくるりと回るマドラー代わりのスプーンは全く止まる気配がない。もう十分にカップの中の黒と白は溶け合っているのに。
細いそれを摘んでいる長い指の持ち主の顔を、スマホの画面から顔を上げてそっと覗いてみたが視線は合わなかった。色素の薄い灰青の瞳はその手元をじっと見つめている。口元は、ほんの少しだけ端があがっているような気がする。
そのまま見つめてみても、視線はなかなか絡まない。くるりくるりと回るスプーンがたまにカップにぶつかる音が響いて、それだけだ。
仕様がないので、視線を手元にまた戻した。今日の残りのタスクの確認と、それからネットニュースを斜め読み。情報の詰まった画面を流し見しながらも意識はずっと正面の彼へと向いていた。
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