彼らの出会い 振り上げたクナイの切っ先が、小刻みに震えて所在を失う。
周囲を包む焦げ臭い匂いが鼻を付いて、手の震えに一層拍車をかけた。
怖くはない。ただ、覚悟が足りない。勇気が足りない。
馬乗りになり動きを封じた相手に、その刃を振り下ろしたなら終わるのだ。自分に課せられた任務は。
それでも、どうしても誰かの命を奪うことができない。ためらうなと、迷うなと何度も何度も教えられてきたというのに。
相手は全身いたるところに火傷を負い、もはやまともに動くことはできない。なれば、もうこれで十分ではないか。命を奪う必要などあるのだろうか。
彼―――望月橙十郎という少年は、忍びの身でありながら人を殺せぬ性分の持ち主であった。
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