「……君が好きだから」
すっかり聞き慣れた声が、聞いたことのない声音でそう言った。琥珀の奥に灯る熱に気付かない振りをして背けようとした顔は、頬に優しく触れた手によって呆気なく固定されてしまう。
これ以上はだめだと警鐘が鳴り響いている。だというのに、脳の判断に身体がついてこない。
「……好きだよ、茨」
その言葉がずっと、耳の奥にこびり付いて消えなくて。
だから、俺は―――
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微睡む意識がゆるやかに浮上した。二、三度目を瞬かせて上体を起こしたところで、セットしてあったアラームが鳴る。最近変えたばかりのメロディに耳を傾けながら両手の指を組んだ日和は、そのまま前から上へと持ち上げぐいっと背を伸ばし、十秒ほどそうしてからそっとアラームを止めた。
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