あなたのために、 黒野は休日に葛之葉の家に招待された。
葛之葉の家は、彼の職場であるアヤカシ清掃社の社屋でもある。黒野は葛之葉から渡された名刺を頼りに、アヤカシ清掃社へ向かった。建物には裏口と呼べるものが見当たらず黒野は様子を窺う。会社の客では無い自分が入口から入って良いのかと悩んでいると、入口の扉が開いて葛之葉が顔を覗かせた。
「よく来たな、黒野。いらっしゃい」
「おう。……お邪魔します」
黒野は躊躇し、それから軽く頭を下げて建物の中へ入った。
「上が俺の部屋になっている。ここはアヤカシ清掃社の応接室といったところだ」
品の良い調度品が並べられており、掃除の行き届いた室内を、葛之葉の視線を追うように黒野は見渡した。
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