踊って、 時は「ベル・エポック」。
国中のあちらこちらで芸術の花が咲き乱れる、全盛期だ。どの文化をとっても良き時代だと、後に回想されるようになる。
だが、それがもたらす恩恵は皆に訪れるとは限らない。
盛りのきた花は枯れるのが運命だ。
改めて考えてみれば、男性ダンサーの数は減っていた。でも僕には沢山のパトロンがいたから、大丈夫だと思っていたんだ。
フォアイエ・デ・ダンスールの入口で、僕は贔屓にしてくれていた男性と話をしていた。
小太りで毛皮を使ったコートをいつも身に着けている男性。
そんな彼は中々の金づるだったのに。僕は内心で舌打ちしつつ、しおらしく頷いた。ここで面倒な男だと思われては、この先、買ってくれる可能性すらも駄目にしてしまう。
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