四歩、三歩。二人。 麗らかな陽気の割に冷えた風が、一瞬、首筋を撫でて吹き過ぎた。
「……つめて」
思わず声に出し、獅子神は身を竦める。
隣ではライトグレーのスプリングコートを羽織った村雨が、澄ました顔でこちらを見ていた。
「まだ、たまに冷たい風吹くな」
「そうだな」
頷きながら、歩を進める。
まだ、昼と言うには早い時間。不揃いの足音が、静かにアスファルトを叩く。
「お、見ろよ村雨」
ふと、獅子神は足を止めて隣に声をかけた。倣うように足を止めた村雨が、声に従い視線を上げる。
「ほら、あそこ。桜」
「……」
「結構散ったと思ったけど、まだ残ってんな」
「……ああ」
頷く村雨の唇は、獅子神にしか分からない程度に微かに笑みを刻んでいた。
3302