雨の日、桜日和「……雨か」
朝。窓を開けた獅子神は、小さく呟いた。その言葉の通り、窓の外はそれほど強くは無いが雨粒が路面を濡らしている。
視線を動かせば、傘を差し俯きがちに歩を進める、出勤中らしき人たちの姿も見える。
「花散らしの雨、とは言うけどな……」
まだ咲いてない場合は、何と呼んだものか。
今年は、冬が長かったように思う。だから、昨年よりも花が咲くのが遅い。
さて、と気合を入れ直して窓を閉める。外を眺めていても、一分一秒で天気が変わるわけでは無い。
今日の予報はどうだったか……とスマートフォンを手に取る。天気予報アプリを起動しようとした、手が止まる。
いつ、目が覚めたのか。
ついさっきまで自分も横になっていた寝台から、暗赤色の目がこちらを見ていた。「起きたのか」と呼びかけて、歩み寄る。
1958