「さることは、――なれば、――とも言えり。……ダンテ? 聞けりや?」
イサンの言葉に相槌のひとつ返していなかったせいか、彼が私の名を呼び、顔を覗き込んでくる。心配の色を浮かべているイサンの瞳と視線が交わり、ようやくぼうっとしていた思考が焦点を取り戻した。イサンの話の話をほとんど聞き流してしまっていた自分に気づき、慌てて彼に謝る。次に向かう区画について教えてほしいと、私から頼んだというのに。
〈ごめん。ちょっとぼんやりしちゃってた〉
「そは構わねど……そなた、安穏なりや? 些か疲弊せるようにも見ゆ。先の戦闘がためならむや?」
〈ああ、いや……そうじゃないんだけど〉
たしかに日中の業務で何度か時計を回したが、普段と変わらない程度だ。感じる苦痛に慣れることはないけれど、いまさら泣き言を言うつもりもない。業務のせいというよりも、昨晩ずっと気を張って集中していたから、今になってようやく気が緩んだのだろう。別にたいしたことはないよ、と続けたが、イサンは無言で私を見つめてくる。その視線の圧力に負けて、私は仕方なく理由を話した。
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