夏 ローテーブルの上には、つまみとグラス。普段は部屋の端の方で小じんまりと置かれているのを窓際に移動し、本日の主役と言わんばかりに、つまみを所狭しと置く。本当に狭い。少し気合が入り過ぎてしまったと、運んできた追加のつまみが乗ったトレイを床に置きながらネロは反省する。
ファウストと同棲を始めてはや数ヶ月。春特有のゆったりとした空気は消え、夏の熱気に焼かれる日々になっていた。結構上手く行くもんだな、と感慨深くなりつつ、テーブルの傍に座るファウストを見る。律儀にも、ネロが座るまではグラスに手をつけない。そういうところが好ましい。「お待たせ」と声をかけつつ、対面へ座る。
今夜の月はとても大きい。おまけに雲もほとんどなく、その光は衰えることなく窓辺に降り注ぐ。ファウストの白い肌がやけに病的に見えた。見えた、だけで今のファウストは至って健康だった。体の線こそ細いものの、三食しっかり食べ、体を動かせるタイプの引き篭もりだからだ。
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