月影を落とす 3,4三.
圭が月の女神と取引をして数週間、季節がもうすっかり秋に変わった頃。
母が「食欲の秋ね」と笑いせっせと栗ご飯を装ってくれるのを片目に見ながら、圭は洗面所に洗顔と歯磨きをしに行き、体重計に乗ったら。
(今日も体重が落ちてる)
冷や汗が背を伝った。
圭は曲がりなりにも成長期だし、筋肉を増やすためのトレーニングもしている。だのに、こんな結果になっているのは。
(味覚のないせいも、あるんだろう)
この頃、食べること自体がとにかく億劫になった圭だ。そのストレスもあってのことかもしれない、この体重減少は。
「母さん、弁当箱を買い直してもらってもいい?」
圭は体重計の数値を見ながら声を張り上げた。月の女神に『味覚はなくとも野球はできる』と大見得を切ったし、それに何より、こんなことごときで野球に影響するなんて、あってはいけないと圭は思う。
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