行く先ははるか(仮題) 銃声が聞こえた。
叫ぶように、祈るように、応えるように。
少年は書き物をしていた手を止め、ふいに顔を上げた。固まっていた首や肩の筋が動きに合わせて鈍く痛んだが、それらは慢性的なものだったので気に留めることはなかった。
重みのある古い椅子は、幼い体躯の少年が動かすためには手を使わなくてはならなかった。持っていたペンを置いてから立ち上がる。周辺には書き損じた紙片が散らかっていたが、少年はそれを躊躇なく踏みつけた。カーテンが引かれた窓の前に立つ。
今は夜だ。深夜帯ということもあってカーテンを閉め切っているが、少年はその間に細枝のような人差し指を差し込んだ。
指二本分ほどカーテンを開く。わずかな隙間ではあるが、片目で景色を見るには問題ない。七階の客室から、そっと雪の積もった街を見下ろす。空が黒に塗りつぶされた景色の中で、街灯に照らされた雪の白がぼうっと浮いていた。
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