左馬刻と風邪引き 背筋を走る嫌な寒気と頭痛に、一郎は思わず顔をしかめた。
季節は五月――ここ数日降り続いた雨は、まだ夏になりきらない春の空気を冷やし、冬に巻き戻ったかのように錯覚しそうになる。いつもなら半日で終わるはずの調べ物はたっぷり一日かかってしまい、窓から外を見やると空は既に昏くなり始めていた。雨脚は緩む気配がなく、街では傘を差した人々が足早に過ぎ去っていく。まるで水の中にいるかのような息苦しさを感じ、ため息を吐いてから一郎はデスクから立ち上がった。瞬間、きりりと背中に痛みが走る。
「っ、つう……」
幼い頃、戦火に巻き込まれた際に負った背中の傷跡は、この雨がまだ続くことを知らせていた。
「いちろう、どうかしたのか?」
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