ゆく年くる年 塾講師に年末年始はあまり関係がないらしい。学校は冬休みに入ったけど──いや、入ったからこそか?──兄は遅くまで仕事をしている。元々遅い帰りが輪を掛けて遅くなっている。遠いところから通勤している講師もいると聞いたことがあるが、その人はいったい何時に帰宅できているのだろうか。
「ただいま」という声が聞こえて慌てて玄関に向かう。
「おかえり、兄さん。今日は早かったね」
「うん。大晦日だから授業はなくて今日は大掃除だけだったんだ。明日も午前中はお休み」
兄はにっこりと笑いながら手袋を外す。駐車場の少ない駅前通りのビルまで自転車で通う兄の指先は痛々しいほど赤く染まっている。
「だから、明日香、初詣は一緒に行こうね」
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