無垢 神童も二十歳過ぎればただの人
なんて言うが僕は二十歳を過ぎてもただの人にはなれなかった。
国内の有名な絵画展で史上最年少で賞を獲ったのは十五歳の事だ。僕の描いた油彩画は賛否両論を巻き起こしたが、話題性欲しさだとか子供故の独創性だとかでいずれ消えるだろうと揶揄されていた僕の才能は潰える事はなく二十八のこの年まで来た。
今や『五条悟』とインターネットで検索すればヒットするページは数知れず。個展を開けば人で溢れるしF4号の絵ですら八桁で売れる。
そんな僕が最上階をアトリエ兼自宅としているマンションの庭に平日の朝と夕方にやたら出没するようになったのはここ最近の話だ。
◇
それはマンション前の桜があまりに綺麗だった春のこと。いつもはアトリエで引き篭もって絵を描いているが、何となくキャンパスと春色の絵の具を持って庭に出た。舞い散る桜が儚く美しくて無心でその様子をスケッチしていれば、気付いた時には近くに人の存在があった。
6501