「幸せの泥濘」第四話小間使いの女が出ていった。ただそれだけのこと、どうでもいいことなはずなのに。この焦燥感はなんだろう。セルは戸惑いながら、女がどこへ行ったか、なにかヒントがないか部屋中探し回った。しかし、置手紙の一つも見つからない。服や身の回りのもの、セルと暮らしてから新しく買ったほんの少しのものを除いて女の荷物は綺麗になくなっていた。セルは額を抑えながら玄関を出る。ちょうど、ファーミンがそこを通りがかった。セルはファーミン様、と呼び留める。
「セルか、どうした」
「ファーミン様、お引留めして申し訳ありません。あの……僕の小間使いを見かけなかったでしょうか」
ファーミンは少し考えてから、「ああ、あの女」と首を傾げた。なにか知っているのか、セルは前のめりになる。
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