唇が重なる瞬間に、こっそり目を開けてみる。
デザインされたように美しい流線を描く瞼には、寸分の手違いもなく長い睫毛が並んでいる。その完璧な放射線の先には人を惑わせる泣き黒子がひとつ。それを乗せる肌は何も上塗りしていなくたってくすむことなく透きとおっていて、ユキ自身の香りがオレの胸をくすぐった。
瞳を閉じていたって、この人は奇跡のように綺麗だ。こんな人とキスをしてること、嘘なんじゃないかと思う。かすかに感じる吐息にぽーっとさせられて、わからなくなってしまいそうになるけど。
ふいに、唇の先を濡れた感触がなぞった。驚いて離れようとするよりも先に両耳の後ろを捕まえられる。ユキは目をゆっくりと開くと、唇を触れあわせたままくすくすと笑った。
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