好きな子が泣いているのを見て嬉しくなる僕は、悪い人間なんだろう。
俯くモモの下睫毛が濡れてへたりと涙袋に貼りついている。堪えるように震えた瞼がぎゅっとつむられ、開いた拍子にはらりと涙がこぼれた。上睫毛の先に乗った小さな雫が、顔を出したばかりの日の光を取りこんできらりと輝く。葉を揺らす朝露みたいで綺麗だ。
「ごめ、なさい」
顔を隠そうとした手を捕まえる。離したら逃げられてしまうだろう。寝起きとはいえ、モモの機動力は侮れない。
対して僕は徹夜明けでよかった。体はギシギシだし、日中だって本気で逃げるモモには敵わないだろうけれど、寝起きの僕よりはマシだ。枯れ気味の声で叫んだおかげで、モモを立ち止まらせたのも運が良かった。
1904