「おや。まだ起きているのですか?英智」
不意に耳に入ってきた愛しい声に、僕は思わず振り返った。
「……渉」
虚を突かれて反射的に名前を呼ぶ僕に、彼はクスッと笑う。
「ほら、ご覧なさい。時計の針は、既に丑三つ時__魔が最も力を持つ時間帯をさしていますよ。夜闇が支配する空間で彼らに逢ってしまうのはあまりにも危険です」
バルコニーつきの大きな窓から月明かりがさすだけの薄暗い部屋の中。闇に紛れるように現れた彼は、静寂を優しく溶かすような歌声で言葉を紡いだ。
凛とした紫水晶の瞳と長い銀髪が月明かりに照らされて鈍く光っているその姿は、まるで一つの絵画のようだった。そう、見た者の足を止めて虜にしてしまう。ゾッとするほど恐ろしくも美しい芸術品。
4443