君を呼ぶ雪「あ〜何度目やコレ?ま、ええか。よお狂児ィ、お勤め御苦労さんっと」
チン、とグラスが擦れ合い歓声をあげる。ありがとうさんです、と短く揃えられた頭を下げつつ、相手のグラスの中身が自分のものに飛び込まないよう器用に避けた。
初夏の日差しを日中たんまり浴びた喉に黄金色の炭酸酒はよく沁みるらしく、アニキ分の小林は嬉しそうに目を細めて飲み下していく。
先の台詞の通り、成田狂児が灰色の虜囚から人間に戻って数日、あちらこちらで祝杯の誘いを有り難く頂戴し、いささか食傷気味になってきた時分を見計らったように、ちょっと付き合えやと誘われた先が、こじんまりとした小料理屋での二人きりの一席であった。
言うて鉄砲玉になったわけでも誰ぞを庇ったわけでもなし、貰い事故みたいなもんで名誉もクソもあらしませんわ。と独りごちると、ええやん、みぃんな祝うてくれるんやから貰っとき、とドスドス脇を小突かれた。
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