【煉炭】狡いです煉獄さん 夏の暑い盛り、炭治郎の任務が煉獄と一緒になった。
夜になっても蒸し暑く、夜鳴き蝉の声がジワジワと騒がしい。
鬼の気配を探りながら人のいない街中の路地裏を、行燈を照らして歩いていく。
時折、行燈の火に向かって飛び込んでくる蛾や羽虫が、焔をジジと揺らし、歩く道行もゆらりとぶれた。
その時、炭治郎の鼻に腐臭が漂い、鬼のいる先を教えるかのように匂いの痕跡が道を示す。
「煉獄さん」
「うむ、君の鼻は実に頼もしいな」
匂いの痕跡が強いが、十二鬼月ほどでは無い。
しかしこの鬼も人を喰う鬼には違いない。その証に、鬼共のいる所には必ず血の匂いもするからだ。
鼻を突く嫌な匂いに顔を顰めながらも、目の前の煉獄の手がスッと炭治郎の前に伸ばされた。
その合図に、炭治郎も歩みを止めて刀の柄に手をかける。
街の外れ、薄暗がりに背を丸めて貪る嫌な音が耳につき、奥歯がギリと音を立てる。
その鬼の傍らに、子供が尻もちをつき、ガタガタと身体を震わせてはこちらに気づいた。
煉獄が口元に指を立て、静かにと制する。
子供から視線を外さずに頷くと、子供は口元に手を当てたまま、静かに涙を零している。
食べられているのは親だろうか。
炭治郎と煉獄は目配せをし合った。
その間僅か。
「炎の呼吸、弐ノ型……昇炎天!!」
煉獄の炎刀から繰り出された技、それと同時に地を蹴った炭治郎が身動き出来ない鬼の傍らの子供を救う。
鬼は捕食している間に、何もわからず崩れて行った。
煉獄の炎に焼かれて、繰り出された技の一太刀に伏されたのだ。
「大丈夫か?どこか怪我は?」
「ひっく、うっ、だいじょうぶ、おかあちゃんが、たすけてくれた」
「怖かったな、よく頑張った……」
よしよしと子供を抱き上げた炭治郎は、もう鬼の匂いはしませんねと言うと、煉獄も頷いて子供を見た。
「家はわかるか?」
「わかる、いえに、とうちゃんがいる」
泣きじゃくりながらも、家を教えた子供を宥めながら、煉獄と炭治郎は子供の家を目指して歩いた。
子供を無事に家に届け、詳細を話した後、泣き崩れる父親と子に暇を告げた。
「慣れませんね、こういうのは」
「ああ……」
しかし他の鬼も待っていてはくれない。
その夜はその後も担当区域から外れた場所でも任務についた。
夜通し鬼を狩り、朝日が上った頃、煉獄と炭治郎はようやく一息つく事ができた。
「竈門少年、よく頑張ったな」
「さすがに疲れましたね」
通常よりも蒸し暑い夜、隊服は汗に塗れている。煉獄は涼し気な顔をしていたが、その額には汗が浮かんでいた。
「今夜もこの地区と少し先を回る。今日は藤の家に世話になろう」
「え?戻れる所ですが、いいんですか?」
「君が望むのなら帰ってもいいが?」
煉獄の意味することをようやく理解した炭治郎は、帰りません!と慌てて後を追う。
藤の家を訪ね、湯を貰うと疲れ果てた身体が癒されていく。
お疲れでしょうと布団が二組敷かれた部屋へ通され、起きましたら朝餉や昼餉をお持ちしますと声をかけられる。
「うむ。呼ぶまでこちらには近づかないように」
「心得ました」
家人が下がると、湯上りの煉獄は炭治郎を布団に組み敷く。
「煉獄さん……お疲れでしょう?!」
「何。君が居るというのにただの共寝など、冗談だろう」
「っ、もう、夜もまた任務なのに」
「竈門少年が嫌なら無理強いはしないが、俺は君を抱きたい」
ダメか?と上から覗き込む煉獄は、顔に落ちかかる髪をスッと耳にかけた。
「ず、っる………いです」
「この仕草を君が好いていると自覚している」
髪を耳にかける仕草をする度に、炭治郎の視線がひりつくのだと言う。
そんなにも見つめてしまっていただろうかと、顔が赤くなる。
「なに、無理はさせない。どうせ暑さは変わらないのでな……もっと暑くなることをしようか」
目を細めて、捕食するような表情に、炭治郎は息を飲む。
「手加減、してくださいね……」
「うむ、善処しよう」
そう笑う煉獄に炭治郎は、これは寝かせて貰えないなと心の中でそっと手を上げた。
髪を耳にかける煉獄さん、たくさん見たいですね!
2021・6・13 りり