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    キツキトウ

    描いたり、書いたりしてる人。
    「人外・異種恋愛・一般向け・アンリアル&ファンタジー・NL/BL/GL・R-18&G」等々。創作中心で活動し、「×」の関係も「+」の関係もかく。ジャンルもごちゃ。「描きたい欲・書きたい欲・作りたい欲」を消化しているだけ。

    パスかけは基本的に閲覧注意なのでお気を付けを。サイト内・リンク先含め、転載・使用等禁止。その他創作に関する注意文は「作品について」をご覧ください。
    創作の詳細や世界観などの設定まとめは「棲んでいる家」内の「うちの子メモ箱」にまとめています。

    寄り道感覚でお楽しみください。

    ● ● ●

    棲んでいる家:https://xfolio.jp/portfolio/kitukitou

    作品について:https://xfolio.jp/portfolio/kitukitou/free/96135

    絵文字箱:https://wavebox.me/wave/buon6e9zm8rkp50c/

    Passhint :黒

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    キツキトウ

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    2021/7/11

    書きもの/「Wisteria」
    書き溜まっていたものを、ポイピクに縦書き小説機能が追加されたので置いていきます。ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいかもしれません。そしてもし誤字脱字がありましたら生暖かい目で見守っていただけると幸いです……。

    ※創作BL・異類婚姻譚・人外×人・R-18・異種姦・何でも許せる人向け。

    #創作
    creation
    #小説
    novel
    #創作BL
    creationOfBl
    #BL
    #異類婚姻譚
    marriageOfADifferentKind
    ##Novel

    Wisteria(2)「Wisteria」について【項目 WisteriaⅠ】「秋、楽しく笑う」閑話1 「お風呂」閑話2 「夢現れた人」「Wisteria」について異種姦を含む人外×人のBL作品。
    世界観は現実世界・現代日本ではなく、とある世界で起きたお話。

    R-18、異種恋愛、異種姦等々人によっては「閲覧注意」がつきそうな表現が多々ある作品なので、基本的にはいちゃいちゃしてるだけですが……何でも許せる方のみお進み下さい。
    又、一部別の創作作品とのリンクもあります。なるべくこの作品単体で読めるようにはしていますがご了承を。

    ※ポイピクの仕様上、「濁点表現」が読みづらいですが脳内で保管して頂けると助かります。もし今後、ポイピクの方で綺麗に表示される様に成りましたら修正していこうと思います。
    【項目 WisteriaⅠ】
    「秋、楽しく笑う」
    閑話1 「お風呂」
    閑話2 「夢現れた人」



    「秋、楽しく笑う」

     天から薄く光差す宵。
     太陽の日差しが騒ぎ、肌に纏わり付くような空気が漂っていた昼と比べ、夜には落ち着きを取り戻し、優しく肌を撫でる心地良い風が流れていた。

     そろそろ眠る時間なのだろう。読んでいた本を閉じ、目を擦ると藤は寝具へと潜り込んでごろりと転がる。気持ち良さそうに布の手触りを楽しむと、やがて小さく寝息を立て始めた。
     すでに蛇の身で微睡んでいた端でそんな藤の様子を確認すると、身を変えて立ち上がり寝室を出る。母屋に居るようになってから時折、久しぶりに人の姿になったのだからと理由づけては、厨で埋もれていた盃を引っ張り出して酒の香りを楽しんでいた。そして今日は月を肴に一杯やろうと縁側に出る。盃に清酒を注ぎ口をつけようとした時だった。
     庭先に見覚えのある扉が現れ、同じく見覚えのある人物が出てくる。その人物は此方に気づくと、薄明りの中から蛇へと声を掛けてきた。
    「……ああ! 久しぶりだね」
    「……鍵屋か」
     そう呼ばれた人物は返事の代わりに手を上げ、掌をひらひらとさせる。
     大きな市街で見かけるような、この辺りではあまり見かける事が無い服を着込み、白髪の頭には左右に上へと伸びる黒い角がある。月明りに反射した瞳は赤く光るが、本来白く映る筈の目は黒く闇が浮かぶようだ。
     当初、この人物を鬼と勘違いしたのはもう遠い過去の事だった。警戒するでもなく、突然現れた人物は意気揚々と此方へ近づいてくる。歩に合わせてその白い髪が揺れていた。
    「飲んでんの? 僕も仲間に入れてよ。あの時みたいにもう一人も呼んでさ」
    「……彼奴はもう居ないぞ」
    「あれ? 一緒に居た人間は?」
     朽名は昔の出来事を思い出す様に、そして人間とはそういうものだと思い出す様に言葉を向ける。
    「寿命……だな。お前が発った後、数十年して亡くなった」
    「でも、人間の気配するけど?」
    「……数百年後に別のが来た」
    「ふっ、あははは」
    「おい」
     その言葉を聞いて鍵屋は大笑いする、見透かしたように。顔なじみで飲み仲間のこの蛇はきっと、人間との関わりを断った筈なのにまた面倒な事に巻き込まれたのかと。
     暫く黙っていたが、途切れる事無く今なお続く笑いに蛇が呆れる。ようやく笑いが治まったのか、ふーと息を吐くと腹を抑えた手を放す。
    「なんだかんだ君、人間が好きだよね」
    「……勝手に名付けて居なくなったり、願いばかり押し付ける人間など好かん」
    「その割には今が楽しいって風に見えるけど」
    「気のせいだろ」
    「そ。じゃあ、また飲む? 今度は二人で」
     とは言うが蛇の了承を聞く前に鍵屋は縁側へと腰を掛けた。


    「そういえばさ。僕、こっちでの〝箱〟を管理してくれる人探してるんだけどさ、今の人間とどう?」
    「お前……誰かに管理を押し付けて旅行を楽しむ気だな」
    「そうそう。僕は気ままに旅をしたいからね。全部管理するのなんて面倒だし。それにこっちに来れば、また人間の寿命に振り回されないで済むでしょ」
    「……」
    「ま、考えといてよ」
    「……ああ」


              ❖     ❖     ❖


     藤が初めて此処へ訪れたあの暑い夏から、季節は秋へと移していた。
     暑さの中緑を芽吹かせていた庭の新緑達は、赤や黄色、橙と色鮮やかな紅葉で藤の目を楽しませる。そんな美しい光景の中、ざっざっと箒でその欠片達を集めていた時だった――
     突然背後から箒ごと拘束される。……正しくは両腕で後ろから抱きしめられた。
     驚いた藤は思わず声を上げてしまう。背丈に差があるからか、足が少し宙を遊んでいる気がする……振り向くと其処に居たのはこの神社の主である蛇だった。
    「驚いたか」
     蛇……もとい朽名は藤の反応が予想通りだったからか、嬉しそうにするとずるずると縁側の方へと引きずりだす。
    「わっ、ちょっと! 今掃除中!」
    「丁度好い。それはそのままにしておけ」

     引きずられ縁側まで来ると、朽名は藤を其処へと座らせる。座らされた藤の横には風呂敷包みと小さな箱が置いてあった。綺麗な模様が描かれた両手程の紙箱に手を伸ばすと、それを藤の手へと乗せる。突然手渡されたそれに困惑し、渡してきた張本人へと視線を向けた。
     渡してきた相手は疑問を瞳に浮かべている藤に箱を開けるように促す。言われたままに蓋を開けると、箱の中には林檎に薩摩芋、そして葡萄など様々な秋の贈り物を使った美しい菓子が入っていた。
    「え? どうしたのこれ?」
    「今日向かった家の者に渡された」
     今までに見た事が無いその細工に藤が目を輝かせ「きれいだね」と告げると、その瞳を確認した朽名は満足そうに笑みを浮かべる。
    「それとこれもな」
     箱と共に置かれていた風呂敷包みを解くと、中からは沢山の薩摩芋が出てきた。
    「他より甘い品種らしいぞ」
    「あ、だから落ち葉」
    「ああ、丁度お前が掃除してるのが見えてな。間が好いと」
     些細な連続に気分が上がったからだろうか、目の前の蛇は何だか楽しそうだ。楽しそうにしているのを見ると自分も楽しく感じるなと、藤はじっと朽名を見る。その視線に気づいたらしい蛇は再び口を開いた。
    「ほら、食べないのか?」


    「どうだ?」
     そんな事は藤の顔を見れば答えはとっくに分かっているだろうに、あえて朽名は問う。
    「おいしい! 甘くておいしいよ」
     朽名の方へ顔を向けて答えると、藤の表情と言葉に嬉しそうに目を細めていた。
     使われている果物の優しい味が口に広がる。
     この場所へ来た時よりもしっかりと食事するようになり、藤は以前よりも肉付が良くなった。そして味を楽しむ余裕が出来き、一つ気づいた事もあった。自分は甘いものが好きだと。
     そもそもこうした甘味自体口にする事が無かった藤は、その甘さ自体を知らず、今のように食べる事を楽しめるのはこの神社の神様のおかげだ。だが、そんな思考に集中していたからだろうか。改めて感謝しかないと、神様にお礼を告げようと思い至ったその時、咀嚼の合間に思い切り口内を噛んでしまった。甘い味覚に混じり僅かな血の香りが広がり滲む。
    「゛い、っ……」
    「どうした?」
    「噛んじゃった……」
     口に手を当て、痛みで薄っすらと目が潤みはじめる。
    「口の中…切っちゃったみたい……」
    「どれ、口を開けてみろ」
    「ん……」
     少し躊躇ったが、やがて甘味をごくりと飲み込むと、言われた通りに小さく「あっ」と口を開けた。確認の為か、朽名が顔を近づけてくるのが分かる。
     ――すると突然、間を開けずに口を合わせられ、するりと舌を滑り込まされた。
    「ん?!」
     突然の事に驚き声を上げる。
     そんな藤の事など構わず、差し入れた舌は好き勝手に口内を弄りだす。そして傷を探し当てると執拗にそこを舐め、ついでとばかりに藤の弱そうな場所を探り始める。舌が通る度にびくっと意図せず肩が震え、甘い息が漏れた。
    「んんん――、んっ……はぁっ……うぅっ」
     やがて十分に堪能したのか口を離した頃には傷なんて見当たらず、荒く息だけを吐く藤が居た。藤から伝い糸を垂らす液を自身の舌で舐め取る。
     その仕草が更に酷く藤の心臓を騒がせていく。だが、蛇が起こした突然の行動に、それを隠すよう抗議の声を上げた。
    「いきなり何するの!」
    「言っただろう? 再生の神だって」
     楽しかったと言わんばかりに蛇はケラケラと笑う。
     なんて事は無いとばかりに笑う蛇を見て、藤はふくっと頬を膨らます。何だか自分だけが恥ずかしくなってるみたいで悔しくなり、思わずケラケラと笑う蛇の口に一つ、手元の甘い菓子を突っ込んだ。


    「……甘いな」



    閑話1 「お風呂」

     秋も終りかけ、より一層冷気を纏った風が外を吹く。

     この神社の神様が、今日は寒さもあってか普段より疲れたらしく、珍しく蛇の姿で藤の傍で寄り寛ぎ、くあっと口を開け欠伸をする。読んでいた本から顔を上げて蛇を見ると、こくっ、こくっと頭が揺れていた。
    「眠そう」
     口を開き蛇に問うと、眠たそうな顔が藤に向けられる。
    「ああ……お前の隣に居ると落ち着くからな」
     寝ぼけたのか本心なのか、寒くて藤の体温が心地良かったからなのか……言い終わると眠そうにモソモソと身を動かし、そして暖をとる様に藤へ更に寄るとそのまま太腿の上へぱたりと顎を落とす。
     かぁっと顔が赤くなり、前よりも暖かくなっている少年の傍で、そのままスースーと寝息を立て始めた。


     膝の重さを気にしない様にその後も読書を続けていた藤だが、隙間から微かに吹いた空気に身を震わせる。その空気で外はより冷え込み、日を落としていた事に気づいた。
     膝の上は自身の体温を含んだ蛇が乗っているので温かい。が、上半身が少し寒い。
    (……お風呂入りたいな)
     それはこの場所に来てから増えた、藤の楽しみの一つだった。そう決めると膝の上で深く眠る蛇を起こさない様にそっと退け、ついでにと自身の上着を体に掛けておいた。そして静かに立ち上がると、喜々として部屋を後にした。


              ❖     ❖     ❖


    「はぁ……」
     ざぱっと湯が揺れる。浴槽に浸かる藤に合わせて波が立ち、水面には気持ち良さそうにしている少年の顔が映し出された。
    「あたたかい」
     此処に来る前は毎日こんな浴槽に浸かれるなんて思いもしなかった。硬く絞った布で体を拭き、時折水浴びが出来れば良い方で、日によっては暗い納屋や物置から出してもらえない時もあったからだ。
     体を浴槽の縁に向け、体を預ける。幅広い縁の上で組んだ腕にうつ伏せた。そんなちょっとした動作と湯の暖かさが自分に安心感を与えてくる。次第に瞼は重みを増していった。
    (朽名…まだ寝てるのかな……?)
     そんな事を思った頃には、すでに藤の瞼は完全に閉じていた。


    (しまった!)
     どうやら、そのまま眠ってしまったらしい。
     恐らく数十分ではあっただろうが、小さな藤の体はすっかりのぼせていた。このままではまずいと急いで浴槽から上がるが、視界がぼやけ、何だかふらついているようにも思う。
     水を取りに行く為に、せかせかと脱衣所で服を着ようとするが、手元がおぼつかず着るのに手こずってしまうのがもどかしい。急ぐ藤の動作で、以前お守りがわりにでもと付けていた小さな鈴が大きく揺れる。
     やっとのこと服を着て、厨まで水を取りに行こうと足を踏み出した時、藤の視界は暗転していた。


    「……ん」
    「起きたか」
    「あれ……?」
     起きるとそこは寝室だった。
     寝具に体を横たえ、隣にはさっきまで眠っていた蛇が寄りそう。長く白い体を更に藤に寄せ、頭を上げると視線を向けてきた。身を起こして隣の蛇を見る。それから時計を見ると、あれからさほど時間は経っていなかった。
    「お風呂に居たと思ったんだけど……」
    「ああ、居たぞ。扉を開けた時にはすでに倒れていたからな、此処まで運んだ。……のぼせでもしたのか?」
    「うん…ちょっとお湯に浸かったまま寝ちゃった……」
    「……其処に水を置いておいたから飲め」
     ふーと蛇が息を吐く。何だか機嫌が悪い様に見えた。
    「……怒ってる?」
    「……」
    「ごめん、手間かけさせちゃった……」
     恐らく一度人の姿で運び、そして蛇に戻してから傍でずっと体に余る熱を取ってくれていたのだろう。余計な手間をかけさせたと思い、しゅんと藤が落ち込む。
     落ち込む藤の様子を見ると、また一つ蛇はふーっと息を吐いた。
    「それを怒っている分けではない……。ほら、水を飲め」
    「うん」
     傍に置いてある水差しへ手を伸ばす。湯呑に水を注ぎ、冷たい水を喉へと通した。その温度差が心地良い。水を飲んだ藤を見届け、安心したのかほっと息つくと、また蛇は膝へと登った。
    「大丈夫そうだな。もう風呂で眠らぬよう気をつけるんだぞ……床に伏しているのを見た時は肝が冷えた。まさか倒れているとは思わなかったからな」
     蛇がやれやれと首振る。
    「人に変えてから風呂場へ向かえば良かったな」
     そして「その方がもっと早く辿りつけただろう」と、ぼそりと小さく呟く声を藤は聞いた。鼻先で隙間から戸を開け、するりと進んでいく蛇を思い浮かべる。
    (……あれ? 〝探す〟じゃなくて、〝風呂場へ向かった〟の……?)
     藤が首を傾げる。てっきり別の場所を覗き探してから、お風呂場に辿り着いたのかと思っていた。
    (蛇は素早くて移動は早いけど、探そうと思ってたら人の姿の方が戸も開けやすいし、探しやすいよね。十ある戸を人が手で開けるのと、蛇が開けて回るのは違う……よね?)
     だから人の姿でお風呂場まで来たのかと思ったのだが……。
    「そのままお風呂場まで来たの?」
    「ああ」
    「どこも探さずに、まっすぐお風呂場まで?」
    「ああ」
     こくりと蛇が頷く。頷く蛇に藤の頭には新たにもう一つ疑問が浮かぶ。
    (……最初から居る場所がわかってた?)
    「ねぇ、なんで俺の居る場所が分かったの? どこで何をしてるなんて言ってなかったのに、いつも俺を見つけるよね」
     藤が不思議そうに首を傾げると、チリンと小さく首元の鈴が鳴る。
    「……さぁ、なんでだろうな」
     じっと不思議そうに目を向け、「うーん」と身を揺らしてはまた一つ音を鳴らした藤を見て、蛇は可笑しそうに頭を揺らした。



    閑話2 「夢現れた人」

     さむい……くらい、おなかがすいた。
     なんど「ここからでたい」をねがったんだろう。

     あるときからおまえは〝にえ〟としてたべられるのだと、なんども、なんども、なんども。なんどにえということばをきかせられたんだろう。

     お前に帰る場所は無いのだから、贄として動けと。
     扉を開く度に差し込まれる白と共に外から来る者達は、自分にそう囁き強いては傷を付けていく。

     逃げない様に。
     贄になる事が決まってからはもう既にこの家から出る手立ては閉ざされてしまっていた。納屋の奥で、その内に枷も付けられて。

     けれど、それでも良かったのだ。

     そうして時間が経とうとも少年の願いは変わらなかった。それだけが自分がこの場所から出られる理由だった。例え此処を出た先が死だったとしても――

     やがて久しぶりに瞳に映した白は、自分を閉じ込めていた家から出された時に浴びた陽の光だった。ようやく浴びたとても眩しく強い光。そして次に映した白は、自分を食べる為見下ろす大きな白だった。


              ❖     ❖     ❖


    「……すわないで」
    「こうしていると落ち着くな。そういえば、猫を吸うと癒されると聞いた事がある。なんだそれはと思ったが確かにこれは」
    「すわないでっ!」
     恥ずかしさに耐えきれなくなった藤が言葉を遮る。
     何時もの様にぽんぽんと膝を打って呼べば、顔を赤くしながら膝に座る。〝食べた〟後にくたりと身を預け、その小さな頭が自分の近くに寄る度に、その誘惑に駆られていた。
     小さな旋毛を見下ろすと、ふわりとした髪が自分を掠めていく。うずうずとした気持ちが抑えきれず、思わず顔をうずめてしまったのだった。そしてまた一つ呼吸をする。更に顔が赤くなった藤が膝から降りようと身を動かすが、
    「っ、ちょっと!」
     飛び込んできた獲物を逃す気はない。がしっと腕で抱きしめ藤を捕らえた。
    「まぁ、もう少し居ろ。疲れを癒してくれ」
    「俺、猫じゃないよ……」
     そっと呟くその少年は少しむくれている風にも見える。
    (気にする所は其処なのか……)
    「愛らしいのは似ているが、確かに猫ではないな。わざわざ食べられに来る猫は居らんだろう」
     耳まで赤いのを見ると、羞恥心を抱きやすいこの少年が、今どんな表情をしているのかを想像するのは容易い。ふっと笑うと息が掛かったらしくぴくっと体が震える。その頭にすりすりと頬ずりをした。

     暫く離さずに抱きしめていたら、藤がこくこくと船を漕ぎ始める。
    「眠いのか? 藤」
    「うん……」
     顔が見える様に抱え直し腕で背を支えると、そのまま目を閉じて眠ってしまった。


              ❖     ❖     ❖


     寝室に移動すると、柔らかな寝具にその身を静かに降ろす。蛇へと姿を変え、欠伸を一つすると自分もその隣へ横になる。すぅすぅと聞こえてくる藤の静かな寝息を聞いていたら何時の間にか瞼を閉じ、意識を手放していた。

     音が沈み切った夜中の事。
     ぐすっと啜り泣く音が聞こえる。続けて小さく呻く声が聞こえてきた。ぼやける意識を無理やり起こす。音が湧き出ている元へと視線を動かすと、月が照らす薄暗い闇の中で、傍らで眠っている少年の目から粒の涙が零れていた。
    (……泣いているのか?)
    「大丈夫か? 藤」
     鼻先でゆするが起きる気配は無い。
    「ごめ…さ……い」
    「ん?」
    「こわい…、や……いたい」
    小さくぽつりとぽつりと。震えた言葉が漏れ出る。その間も変わらず目からは粒が零れていた。
    「なぐらないで」
     がくがくと身が震えている。止まらない涙の狭間で、「さむい」と呟く言葉が聞こえてきた。いつも見せてくれる明るい笑みが今は遠く、何処か遠い場所へ置き去られてしまったみたいだった。
     ズッと身を持ち上げると蛇が姿を変える。自らの腕で小さな身を抱えると、胸元で抱きしめた。暗い何かを見てきたのだろう。起きてしまった過去を変えられるほど自分は万能ではない。せめて、夢の中でならきっと。

     ふーっと息を吐く。横になり、懐に小さな体を寄せたまま、頬杖を突いた手とは反対の手で泣き眠る藤の背を撫でた。


              ❖     ❖     ❖


     翌朝、ずしりと自分の上に重さを感じ意識を取り戻す。
     何時の間にか、無意識のうちに蛇の姿へと身を戻していたらしい。頭を持ち上げ、重さを感じる方へと視線を向ける。其処には長い胴に、抱きつく様にして小さな身を預けてすやすやと眠る少年が居た。
     昨日とは違いその表情かおはとても穏やかなもので、濡れた目元だが口元は解れ、僅かに笑みが浮かんでいる。その様子を見てほっと息を吐く。
     自分の身が蛇に変わっていても離れる様子が無く、胴にぎゅっとしがみついているのを見ていたら、その頭を撫でたくなってまた人へと姿を変えた。


    「んっ」
    「起きたか?」
     静かに眠る少年の頭を撫で続けていると、薄い唇から小さく声が漏れ瞼が開かれていく。頭を撫でている事にこの恥ずかしがり屋の少年が気づいたら、きっと頬を赤らめるだろうと蛇は予想した。だが――
    「おはよう」
     頭を撫でている自分を見上げると柔らかくそう告げ、昨夜の泣き顔からは想像が出来ない程ふにゃりとした笑顔を向けてきた。そして寝ぼけているのか、朽名が着ている服をぎゅっと掴むと寄せている身を更に寄せ、おでこをくっつけて再び夢の中へと落ちていった。

    「……ずるいな」
     驚きで硬直していた体を解す。自分に安心しきり、不意打ちで向けてきた柔らかな笑みに、蛇は染まった頬と共に口元を抑えた。



              - 了 -
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