コーヒーカップは無重力 コーヒーカップを買った。
「あ? 敬、お前そんなん買ったのかよ」
昼下がり。合宿施設のダイニングルームで真四角の箱から取り出して眺めていると、背後から一孝に声をかけられる。怪訝な顔をしていた。
「へへっ、ビビッときたからな〜」
新品のコーヒーカップは全体がつやつやで深い青色をしていた。光に当たると深海を想起させてくるそれは思わず見惚れてしまうほどの訴求力を放っていて、敬はまんまとその手中に収まってしまった。
「お前にそんな小遣いあったのか?」
「バイトして貯めた金で買った! 一ヶ月前くらい? もうちょっと前だったかな? に、お店のおねーさんにキープしてもらってさ!」
敬は鼻息荒く言って、一孝に向かってコーヒーカップを掲げた。ほう、と苦い顔になる一孝。
5815