鍋をくう■いじちくん視点
私は今、異様な緊張感をもってひとさまのマンションのエントランスに立っている。決して初めて来た場所ではないというのに、部屋の番号を押してチャイムを鳴らす、たったそれだけのことができないまま指先が冷えていくのを感じている。
きっかけは七海さんからの一通のメッセージだった。
[お疲れ様です。今日は残業なく上がれそうですか]
えええ七海さんから仕事以外の話題で連絡がくるとは何事だ?! これはもしかして――と一瞬脳裏をよぎったあの御方は今国外なのだそういえば、と思い出している間に[石狩鍋の消費を手伝ってもらえると助かるのですが、都合はいかがですか]と続いていた。
私はそれを三度見した。
石狩鍋、を消費……とはいったい何の話でしょう、ひょっとしてお夕飯……いやお夕飯?! えええ?! なぜ私に?! はっ、これはもしや五条さんの仕業? あのひともう帰ってきていらっしゃる……? 予定では明日午後の帰国だったはずなのに――
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