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    きまい

    42_uj

    MEMOのばまき。
    渋谷後。オメガバース、β×Ω。
    恋人同士だけど恋愛関係ではなくてちょっと暗い話です。まきまいを含みます。
    (2021年11月14日)
    もういないひと 最悪だ。またこの夢だ。暗闇のなかで2匹の美しい獣がたわむれている。猫。しなやかな筋肉、すらりとした細身の白い猫。2匹の白猫はお互いの尾を追いかけあってくるくると回っている。かわいい。ほほえましい。夢ってだいたいそういうかんじだけど、やっぱりこの夢でも「夢を見ている私」と「夢の中のその光景を見ている私」がいて、後者をわたしって呼ぶことにしようか。わたしはその光景がいとしくてたまらない。じゃれあう猫たちを見つめながらわたしは「いつまでもいつまでもそうしていなさいね」と心底おもっている。願っている。
     私は早く目を覚ましたいのに目を離せない。
     やがて──何度も繰り返し見ているとおりに──猫の片方が闇に溶けるように消えて、残された猫は片割れを探すように鳴き続ける。鳴き声が枯れてきたころ暗闇から汚れた芝犬が現れる。猫と同じか、少し小さいくらいの子犬だ。子犬の舌が猫の体を撫でるのを、猫が安心したように眠るのを、わたしは恍惚と眺めている。わたしにとってそれはどこか官能的な光景だった。でもそのうち怒りが湧いてくる。子犬を許さないとかんじる。大事なものを失った猫に寄り添うふりして子犬はまんまとじぶんの居場所を得たのだ。打算だ。わたしはその子犬を始末する方法を知っている。直接手をくだすまでもない。藁人形と五寸釘を取り出して、わたし自身の胸に当てる。わたしは金槌をじぶんに向かって振り下ろす。共鳴り。子犬はわたし自身なのだ。だからわたしが死んで子犬も死ぬ。
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