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    佐藤さん

    しきしま

    DONE佐藤さん×朝陽(※養子縁組)殺風景だった佐藤さんの部屋に、少しずつ俺のものが増えてきた。置いてある歯ブラシは常に二本になり、枕元に灰皿も置かれた。読んだまま戻し忘れた漫画で、本棚は歯医者の待合室みたいになった。そんなふうにして、俺の帰る家は六本木になった。
     まだ一年目の新人が六本木に引っ越すのを上司は少し訝しがったが、家族がそこに住んでいるのだと言うと、納得したようだった。
     それももうすぐ、嘘ではなくなるはずだ。

    「ほんとうにいいのかな、朝陽」

     カーテンの隙間から覗く月を見つめながら、佐藤さんは呟くように言った。その言葉は、もううんざりするほど聞いていた。心の中をそのまま映し出すように、手に持ったワイングラスの中の赤が揺れている。
    佐藤さんの気持ちも分かる。
    だからこそ、なおさら俺はうんざりしていた。

    「俺はそうしたいよ。佐藤さんは違うの?」
    「僕もそう思うよ、でも……」

     佐藤さんは、困ったような顔で俺を見た。

    「朝陽の人生を縛るのはイヤなんだ」

     俺は、人生を縛られたつもりはなかった。自分の意志でこの部屋にいて、自分の意志で、佐藤さんの養子になろうとしているのだ。
     ただ、佐藤さんと家族にな 3219