天城燐音
m_matane_
PROGRESS5 鼻歌泥棒
この町へ来てからずっと、静かな雨が降っている気がする。
通り沿いを少し歩くとお風呂屋さんがあるから入ったら良いですよ、怪我も清潔に保たないと膿んだりするし。と先日知り合った小学生に教えられたが、その建物の前を通ってみたのは気まぐれだった。長い煙突が伸びる古びた建物。この通りは何度か歩いていたけれど、足を止めたのは初めてだった。入口にかけられた「ゆ」の一文字だけが白抜きで染めてある暖簾は潔くて良いと思った。
『入浴料金大人(12歳以上)460円』。掲げてある看板に書かれたそれが高いのか安いのかはわからなかったが、間もなく底をつきそうな所持残金を考えると支払うのは難しいと思った。風呂に入らなくても死なないが、飯が食えないと命に関わる。オネーサンがくれた握り飯はとっくに食べ尽くしてしまった。このままニキの家に戻らないなら、すぐにでもどこか働き口を見つけないといけない。けれど、学歴も家もない、薄汚い俺が働ける場所なんて都会にあるのか怪しい。自分が悪循環に陥っているのはわかっていた。
10514この町へ来てからずっと、静かな雨が降っている気がする。
通り沿いを少し歩くとお風呂屋さんがあるから入ったら良いですよ、怪我も清潔に保たないと膿んだりするし。と先日知り合った小学生に教えられたが、その建物の前を通ってみたのは気まぐれだった。長い煙突が伸びる古びた建物。この通りは何度か歩いていたけれど、足を止めたのは初めてだった。入口にかけられた「ゆ」の一文字だけが白抜きで染めてある暖簾は潔くて良いと思った。
『入浴料金大人(12歳以上)460円』。掲げてある看板に書かれたそれが高いのか安いのかはわからなかったが、間もなく底をつきそうな所持残金を考えると支払うのは難しいと思った。風呂に入らなくても死なないが、飯が食えないと命に関わる。オネーサンがくれた握り飯はとっくに食べ尽くしてしまった。このままニキの家に戻らないなら、すぐにでもどこか働き口を見つけないといけない。けれど、学歴も家もない、薄汚い俺が働ける場所なんて都会にあるのか怪しい。自分が悪循環に陥っているのはわかっていた。
睚间切切子
REHABILI这篇是答应了要写的福利文之一,全文9k7又是单性转的彩妹,有一点抹布出场和随口一提的天城燐音吃代餐
密码的话是本人出的破烂同人小本《美意延年》里79页最后一句的首字母。大写,共11位。 9705
MILK_StarBright
DONE雨垂れショーウィンドウから、颯馬くんに塩を送り中のHiMERUさんと、パチ帰りに様子を見に来る燐音くん♪この後皆で夕ご飯でも食べに行って欲しい♪燐音くんの奢りで♪
水族館風ディスプレイ、どう転んでも可愛いからスチルで見たかったな☺️
逆にHiMERUさんのトレンドなディスプレイは想像付かないな~?
メンダコちゃん実物は手の平サイズだと思うけど、HiMERUさんに被せたいから大きくした🤤👍
燐
m_matane_
PROGRESS4 ぐねぐね道をまっすぐ
「おい、落としたぞ」
「……あっ」
突然かけられた声にびっくりして振り返ると、知らないヤツがぼくのハンカチを差し出して立っていた。
「あ、ありがとうございます」
「ん」
ぼくがハンカチを受け取ると、そいつは頷いて歩き出した。ぼくとすれ違いざまにハンカチを拾ってくれたようで、ぼくとは反対の方向へ進んで行った。平日の朝、ランドセルと黄色い帽子が一方方向へ流れていく中で、薄汚れた格好のそいつは少し目立っていた。背が高いしぼくよりは年上だろうけど、大人には見えない。高校生くらいだろうかというのに私服で手ぶらなことから学校へ行く様子はなかった。
なんとなくぼうっとその背中を目で追っていたけれど、すぐに人波に揉まれて見失ってしまう。
8550「おい、落としたぞ」
「……あっ」
突然かけられた声にびっくりして振り返ると、知らないヤツがぼくのハンカチを差し出して立っていた。
「あ、ありがとうございます」
「ん」
ぼくがハンカチを受け取ると、そいつは頷いて歩き出した。ぼくとすれ違いざまにハンカチを拾ってくれたようで、ぼくとは反対の方向へ進んで行った。平日の朝、ランドセルと黄色い帽子が一方方向へ流れていく中で、薄汚れた格好のそいつは少し目立っていた。背が高いしぼくよりは年上だろうけど、大人には見えない。高校生くらいだろうかというのに私服で手ぶらなことから学校へ行く様子はなかった。
なんとなくぼうっとその背中を目で追っていたけれど、すぐに人波に揉まれて見失ってしまう。
m_matane_
PROGRESS3 花泥棒
深く細く吐いた息は、室温に戻したバターにナイフを入れたときのようなだらしない手ごたえで空を切った。
夜の闇に、俺に怯えて震える男の顔と、骨のない生き物みたいにぐにゃりと俺の腕の中で崩れたニキの顔が順番に浮かんでは消える。ニキ。面倒ごとになる前に病院から逃げてきてしまったが、あいつの怪我はどの程度のものなのだろうか。跡や後遺症が残らないものだと良いのだが。生ぬるい夜の風が指の関節を触り、思わず呻いた。皮が剥けて血が滲んだそこは僅かな空気の揺れですら染みて痛んだ。故郷の稽古で拳を繰り試合をすることはあったが、手をろくに保護せず人を殴ったのは初めてだった。それに、手加減しない人間の暴力を真正面から受け止めるのも。身を護るために構えた拳は乾いた音を立てて肉や骨に何度も当たった。その嫌な感触はまだ消えない。
5653深く細く吐いた息は、室温に戻したバターにナイフを入れたときのようなだらしない手ごたえで空を切った。
夜の闇に、俺に怯えて震える男の顔と、骨のない生き物みたいにぐにゃりと俺の腕の中で崩れたニキの顔が順番に浮かんでは消える。ニキ。面倒ごとになる前に病院から逃げてきてしまったが、あいつの怪我はどの程度のものなのだろうか。跡や後遺症が残らないものだと良いのだが。生ぬるい夜の風が指の関節を触り、思わず呻いた。皮が剥けて血が滲んだそこは僅かな空気の揺れですら染みて痛んだ。故郷の稽古で拳を繰り試合をすることはあったが、手をろくに保護せず人を殴ったのは初めてだった。それに、手加減しない人間の暴力を真正面から受け止めるのも。身を護るために構えた拳は乾いた音を立てて肉や骨に何度も当たった。その嫌な感触はまだ消えない。