Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    梅雨

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    梅雨の紫陽花を見に庭へ出たら大倶利伽羅と会っていつになったらふたりでいられるのかと呟かれる話
    青紫陽花


    長雨続きだった本丸に晴れ間がのぞいた。気分転換に散歩でもしてきたらどうだろうと近侍の蜂須賀に言われて久しぶりに外に出る、と言っても本丸の庭だ。
    朝方まで降っていた雨で濡れた玉砂利の小道を歩く。庭のあちらこちらに青紫色や赤色、たまに白色の紫陽花が鞠のように咲き誇っている。
    じゃりじゃりと音を鳴らしながら右へ左へと視線を揺らして気の向くまま歩いて行く。広大な敷地の本丸の庭はすべて散策するのはきっと半日ぐらいはかかるのだろう。それが端末のタップひとつでこうも見事に変わるのだから科学の進歩は目覚ましいものだ。
    「それにしても見事に咲いてるな。お、カタツムリ」
    大きく咲いた青紫の紫陽花のすぐ隣の葉にのったりと落ち着いている久しく見なかった姿に、梅雨を実感する。角を出しながらゆったり進む蝸牛を観察していると、その葉の先端が弾かれたように跳ねた。
    「……うわ、降ってきた」
    首の裏にもぽつんと落ちてきて反射的に空を仰げば、薄曇りでとどまっていたのが一段色を濃くしていた。ここから本丸に戻ろうにもかなり奥まで来てしまった。たどり着くまでに本格的に降り出してきそうな勢いで頭に落ちる雫の勢いは増 3034

    気まぐれだけど優しくして

    MEMO『二人の夏』
    梅雨の時期に書いたさねずSS

    もうすぐ、最後の夏がくる
    「それにしても、久しく青い空なんてのを見てねぇなァ」

    風柱邸の広縁に並ぶ二つの座布団。家主の好物で小腹を満たした昼下がり。
    片方の座布団を覆い隠すように胡座をかいて、ザーザーと音がする外を眺めていた男が口を開いた。

    「さすがに鬱陶しくなってきたぜェ」

    少しばかり怒りの色を滲ませた声を聞き、隣に並ぶ座布団にちょこんと座っていた禰豆子はくつくつと笑いながら応えた。

    「実弥さん、夏がまだ来ないならそれもいいって言ってたじゃないですか」
    「ここまで続くなんざ思ってねぇだろォ」
    「日差しで暑いよりは雨を見てる方が涼しくていい、のでしょう?」
    「……ああそうだったなァ。雨の方が涼しくていいに決まってんだろォ」

    ばつが悪そうに顔をしかめると、実弥は足を投げ出してごろりと床に転がった。
    禰豆子が放ったそれは、梅雨の季節だというのにしばらく日照りが続き、ようやく雨が降り始めて幾日か経った朝に彼が放った言葉だった。
    雨が続くと洗濯が、買い出しがと気を揉んでいた禰豆子をよそに、余裕綽綽な様子で雨を喜んでいた男の姿はもうそこにはない。

    「まだ暫くは、この雨続くみたいですよ。涼しくて何よりですね」
    1260