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    なつのおれんじ

    DONE泡沫の日常 / そねさに
    2018-11-25
    マグカップに珈琲を注ぐと、湯気と共に豊かな香りが立ちのぼった。
    戸棚から白い陶器の瓶を取り出し、蓋を開けると、中に入っているはずの角砂糖が無いことに気づく。先日同じように珈琲を淹れた時に切らしてしまったのを思い出し、おれは溜息をついた。
     ここのところ出陣も無かったせいか、どうも気が抜けている。普段なら切れた時点で補充しているのだが、すっかり忘れていた。
    ……しっかりしなければ。そう自分を叱咤しながら、戸棚に角砂糖の予備がないか探し始める。しかし、戸棚をガサゴソと漁ってみても、予備はどこにも見当たらなかった。
    (参ったな……)
     自分が飲む分には必要ないのだが、これは彼女のために淹れたもの。
    彼女は甘い珈琲を好むので、できれば砂糖たっぷりのものを用意してやりたかったが、無いものは仕方ない。マグカップを盆に乗せて立ち上がると、おれは再び溜息をついた。

     長い廊下を、珈琲をこぼさないようゆっくりと進んで行く。執務室に到着し、仕切り戸を指で軽く叩くと、はぁい、と軽やかな声が返ってきた。静かに戸を開けると、机に向かっていた彼女が振り返った。
     この本丸を取り仕切る審神者、つまりおれたちの主。 1495