Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    はるち

    DONE雨の日には憂鬱が良く似合う。
    雨を見くびるな 雨の日には孤独が似合う。
     起きた時から憂鬱だった。寝台で煙草を吸うのはやめろと注意したのは誰だったか。子どもたちがいた頃はやめていたが、皆がこの事務所以外の居場所を見つけてからは、もうそれを気にする必要もなくなった。起き抜けに火をつける。ひっきりなしに雨粒が窓ガラスを叩き、一人きりの部屋を満たしていく。朝のせいか気圧のせいか、それともこの紫煙のせいか。頭は雨水を吸ったように重くなり、それが体中に広がる前になんとか寝台を抜け出す。
     最低限の身支度を整えて、事務所を出る。料理をすることは嫌いではないが、今は自分以外の誰かが作った料理を食べたい気分だった。天気の悪い日に行く場所は決まっている。行きつけの喫茶店だ。この時代にも関わらず喫煙者に優しいその喫茶店は、全席が喫煙席だった。まるで分煙のされていないその店は、そのせいで賑わっているようには見えなかったが、しかしやっていけないほどではないらしい。自分のような人間は、この街には少なからずいるのだろう。紫煙が薄く烟っているような薄暗い店内は、嫌いではない。時として人は自らを照らす太陽よりも、傷を隠してくれる闇と、それに寄り添うよう月に親しみを覚えるのだ。
    1169