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    フェニックス

    伊坂台

    MOURNINGしねないフェニックス短編
    翼の脈 少し喋っても良いですか。

     私が異常であることに気づいたのは、随分遅かったように思います。自分の使命からほんの束の間、目を離したときに初めて気づいたのです。
     使命、というより最早ただの仕事なのですが、今も処刑人をやっています。昔と違うことは、剣の腕が必要ないことですね。執行の際に私がすべきことは、ただボタンを押すだけです。ボタン、分かりますか?マキーネというのがあったと思いますが……そういうカラクリの類いに付いている、いわば引き金です。
     といっても、私が押したボタンが死刑囚の首を絞めるとも限りません。ボタンは複数あって、どれが実際に引き金になったかは分からない仕組みなのです。執行の任につく者の心理的な負担を減らすためでしょう。正直に言って、少々まどろっこしいように思います。罪を犯した者を法に則って裁き、殺す。それは自分が決めたことではないし、この任につくと決めたのは自分自身です。配慮などされる必要はありません。ええ、世界が平和になった証拠とも言えます。あの頃の剣呑さでものを語るべきではないかもしれません。そして、私が彼らの営みに口を出して良いのか、そもそもこうして紛れ込んでいて良いのかも、分かりません。
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