薬膳りんごカルピス
PAST音楽科に転科したばかりの高咲が自分の才能に向き合う話『嵐珠ちゃんは許してくれない』ピアノの鍵盤を前にして、私はただ黙って座っていた。
譜面の上には、途中まで書きかけた音符がいくつか並んでいる。でも、どうしても次の一音が思いつかない。どれだけ手を動かしても、心に響くメロディにならない。
─────才能がないんじゃないか。
そんな考えが頭をよぎる。
もともと普通科にいた私が音楽科に転科したのは、みんなの夢を応援するうちに「音楽」というものに惹かれたからだった。
ピアノは昼休みに遊び半分で弾く程度だったけれど、本格的に学び始めたのは最近のこと。最初のうちは授業についていくのが精一杯で、それでも必死に食らいついてきた。
でも─────
「やっぱり、才能がある人には敵わないのかな……」
ポツリと呟いた言葉は、空気に溶けて消えていく。
1333譜面の上には、途中まで書きかけた音符がいくつか並んでいる。でも、どうしても次の一音が思いつかない。どれだけ手を動かしても、心に響くメロディにならない。
─────才能がないんじゃないか。
そんな考えが頭をよぎる。
もともと普通科にいた私が音楽科に転科したのは、みんなの夢を応援するうちに「音楽」というものに惹かれたからだった。
ピアノは昼休みに遊び半分で弾く程度だったけれど、本格的に学び始めたのは最近のこと。最初のうちは授業についていくのが精一杯で、それでも必死に食らいついてきた。
でも─────
「やっぱり、才能がある人には敵わないのかな……」
ポツリと呟いた言葉は、空気に溶けて消えていく。
薬膳りんごカルピス
PAST高咲と歩夢ちゃんが一緒に登下校する話『そういうの』冬の空気は頬に冷たく、吐く息が白く曇る。私たちは放課後の帰り道、人気の少ない公園のベンチで一息ついていた。マフラーをぐるぐる巻きにして、コートのポケットに手を突っ込んでいるけれど、それでもやっぱり寒い。
隣で侑ちゃんが空を見上げている。彼女の顔がほんのり赤いのは、寒さのせいだろうか。それとも夕焼けの光のせいだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、私はぎゅっと肩をすくめる。
「歩夢、こっちきて」
突然、侑ちゃんが私を呼ぶ。その声に顔を上げると、彼女はじっと私を見つめていた。
「え、なに?」
少し不安になりながらも、私は彼女の近くに寄る。すると、侑ちゃんは何も言わずに自分の首に巻いていたマフラーを外して、それを私の首に優しく巻きつけた。
1559隣で侑ちゃんが空を見上げている。彼女の顔がほんのり赤いのは、寒さのせいだろうか。それとも夕焼けの光のせいだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、私はぎゅっと肩をすくめる。
「歩夢、こっちきて」
突然、侑ちゃんが私を呼ぶ。その声に顔を上げると、彼女はじっと私を見つめていた。
「え、なに?」
少し不安になりながらも、私は彼女の近くに寄る。すると、侑ちゃんは何も言わずに自分の首に巻いていたマフラーを外して、それを私の首に優しく巻きつけた。
薬膳りんごカルピス
PAST自分の1/7スケールフィギュアの試作品をまじまじと鑑賞される栞子さんの話『1/7の純情な感情』部室のドアを開けると、すでに歩夢さんと侑さんが中で談笑していた。穏やかな時間が流れるいつもの部室だが、今日は少しだけ空気が違う気がする。歩夢さんは私を見つけると、いつも以上に嬉しそうな笑顔を浮かべ、すぐに話しかけてきた。
「栞子ちゃん、聞いたよ!フィギュア化おめでとう!」
「ありがとうございます……」
やはりこの話題か。内心、嬉しい気持ちはある。けれど、この何とも言えない複雑な感情は何なのか。
自分のスケールフィギュアが発売されるなんて、普通の高校生では考えられないことだろう。でも、スクールアイドルとして活動している私にとっては、それが「普通」なのだと嫌でも思い知らされる。
「そういえば、なんで私たちのグッズって、知らない間に商品化されて売られてるんだろう?」
3461「栞子ちゃん、聞いたよ!フィギュア化おめでとう!」
「ありがとうございます……」
やはりこの話題か。内心、嬉しい気持ちはある。けれど、この何とも言えない複雑な感情は何なのか。
自分のスケールフィギュアが発売されるなんて、普通の高校生では考えられないことだろう。でも、スクールアイドルとして活動している私にとっては、それが「普通」なのだと嫌でも思い知らされる。
「そういえば、なんで私たちのグッズって、知らない間に商品化されて売られてるんだろう?」
薬膳りんごカルピス
PAST「ねえ、侑ちゃん。私、ずっと侑ちゃんのこと好きだったんだよ。友達として、じゃなくてひとりの女の子として」「うん。知ってた」
幼馴染の花嫁姿を見送る、高咲の話
「福音」私は立ちすくんだまま、祭壇の前に佇む歩夢を見つめていた。彼女の笑顔は純粋で、どこか懐かしさを感じさせる。ほんと、小さい頃から何も変わってない。幼い頃から共に過ごしてきた記憶は、まるで昨日のことのように鮮明で、それらが心を埋め尽くすたびに、胸が締め付けられる。
披露宴が終わり、参加者が帰り支度を始める中、私はやっとの思いで歩夢に近づいた。彼女は振り向き、静かに微笑む。
「ねえ、侑ちゃん。私、ずっと侑ちゃんのこと好きだったんだよ。友達として、じゃなくてひとりの女の子として」
歩夢の言葉は、まるで時が止まったかのように私の心に響いた。本当はずっと前から気づいていた。でも、私が知らないふりをし続けたせいで、ついぞ、名前さえつかなかった歩夢の感情。それが今、私の目の前にある。
946披露宴が終わり、参加者が帰り支度を始める中、私はやっとの思いで歩夢に近づいた。彼女は振り向き、静かに微笑む。
「ねえ、侑ちゃん。私、ずっと侑ちゃんのこと好きだったんだよ。友達として、じゃなくてひとりの女の子として」
歩夢の言葉は、まるで時が止まったかのように私の心に響いた。本当はずっと前から気づいていた。でも、私が知らないふりをし続けたせいで、ついぞ、名前さえつかなかった歩夢の感情。それが今、私の目の前にある。