青井青蓮
MOURNING重雲生誕2021で書いた「生まれて初めて」のその後あっちと違って暗い話ではないです
花は愛でてこそ 火の消えた蝋燭の煙は、随分前に夜風に攫われたのだろう。青き月光だけが侵入を許されたその部屋に、祝宴の席で散々持て囃され消耗した部屋の主が寝息を立てていた。
数歩先の位置に寝台があるというのに、月の光と同じ色をしたその少年は椅子に腰掛けたまま机に伏して眠っている。皺にならぬようにと避けられた数枚の紙にはどれも奇怪な絵が描かれており、饅頭のような物体から四方に向かって大きな羊歯のようなものが生えているそれを見ても、此奴が何を描こうとしていたのかを窺い知ることは出来そうにない。
――己の目で見たこともないものを描こうとするから、このような訳のわからないものが出来上がるんだ。
今よりも幼かった頃の此奴に思ったままの感想を伝え、頬を膨らませ拗ねてしまった此奴のその時の顔を思い出してしまい、思わず笑いがこみ上げた。
749数歩先の位置に寝台があるというのに、月の光と同じ色をしたその少年は椅子に腰掛けたまま机に伏して眠っている。皺にならぬようにと避けられた数枚の紙にはどれも奇怪な絵が描かれており、饅頭のような物体から四方に向かって大きな羊歯のようなものが生えているそれを見ても、此奴が何を描こうとしていたのかを窺い知ることは出来そうにない。
――己の目で見たこともないものを描こうとするから、このような訳のわからないものが出来上がるんだ。
今よりも幼かった頃の此奴に思ったままの感想を伝え、頬を膨らませ拗ねてしまった此奴のその時の顔を思い出してしまい、思わず笑いがこみ上げた。
青井青蓮
DONE2021年のキスの日に書いた(キスしてない)仙人と方士世俗の戯言に心を乱す仙人の話「私がいた世界でね、‘キスの日’と呼ばれる日があって。映画……って言ってもわからないか。恋人役として共演していた役者の二人が、世界で初めて芝居でキスシーンを演じた日なんだ」
――それが今日なの。
色めき立つ女共の声に辟易しながら、どうしたものかと天を仰ぐ。
救国の功労者ともあろう者が数人の小娘共に混ざり、くだらない情報を共有し合い時折甲高い声を上げながら騒いでいる。
盗み聞きするつもりは毛頭無い。しかし千里先の呼び声をも捉えるこの耳は、見下ろす彼女らの会話を具(つぶさ)に拾い上げてしまう。
彼女らに悪気は微塵も無いだろうが、気を休めるにも暫くは場所を移した方が良いのではという考えが脳裏にチラつく。
どこかに人気がなく静かに過ごせる場所は無いのだろうか。……女が集まり立ち話を始めると、とにかく長いのだ。
1127――それが今日なの。
色めき立つ女共の声に辟易しながら、どうしたものかと天を仰ぐ。
救国の功労者ともあろう者が数人の小娘共に混ざり、くだらない情報を共有し合い時折甲高い声を上げながら騒いでいる。
盗み聞きするつもりは毛頭無い。しかし千里先の呼び声をも捉えるこの耳は、見下ろす彼女らの会話を具(つぶさ)に拾い上げてしまう。
彼女らに悪気は微塵も無いだろうが、気を休めるにも暫くは場所を移した方が良いのではという考えが脳裏にチラつく。
どこかに人気がなく静かに過ごせる場所は無いのだろうか。……女が集まり立ち話を始めると、とにかく長いのだ。
青井青蓮
DONE相互様から(半ば強引に)拝借したネタ弊ワットの方士はどうも寝惚けてひと様の懐に潜りがちな模様
ただ安らかであれ 軽策荘から少し離れた南の竹林は、豊かに生い茂る笹の葉が朝露に濡れ、灰色の雲を遥か遠くへと追いやった空から注がれる日の光を反射しながらそよ風に煽られ棚引いている。
深夜から日の出前まで降り続けていた恵みの雨はすっかり止み、湿った土と爽やかな草の匂いを孕んで吹く風は竹と笹の隙間を通り抜ける度にその熱を下げ、加えて天に向かって真っ直ぐに伸びる鮮やかな深緑がもたらす天然の屋根により、周辺一帯を過ごしやすい温度に保ってくれている。
モンドから来る人々はその大半が璃月港を目指す為、石門の先の分かれ道で南下する者が多い。
此処、軽策荘方面を訪れる者は少なく、人の手があまり入っていない竹林の小道を経由しようとすれば猪やそれを目当てとした魔物に遭遇することにもなる為、自ずとこの道を利用する者は少なくなる。
1374深夜から日の出前まで降り続けていた恵みの雨はすっかり止み、湿った土と爽やかな草の匂いを孕んで吹く風は竹と笹の隙間を通り抜ける度にその熱を下げ、加えて天に向かって真っ直ぐに伸びる鮮やかな深緑がもたらす天然の屋根により、周辺一帯を過ごしやすい温度に保ってくれている。
モンドから来る人々はその大半が璃月港を目指す為、石門の先の分かれ道で南下する者が多い。
此処、軽策荘方面を訪れる者は少なく、人の手があまり入っていない竹林の小道を経由しようとすれば猪やそれを目当てとした魔物に遭遇することにもなる為、自ずとこの道を利用する者は少なくなる。
青井青蓮
SPOILER好感度ボイスバレあり魈と重雲がお話してるだけ。腐った描写はない(たぶん)
真の良薬とは「魈様!ああ、よかった。おいででしたか」
「……重雲か。何度も言うがお前を妖魔退治に連れては行かんぞ」
「うぅ……わ、わかってます。そうじゃなくて」
これを届けてほしいと頼まれまして。
そんな言葉と共に差し出された見覚えのある箱を受け取りながら、目の前の膨れ面に気取られぬように息を吐いた。
――連理鎮心散。背負った業障に毒された気と精神を正常なものへと整え、我が我のままでいる為になくてはならないもの。
そろそろ切らしそうだと思っていた矢先の届け物。送り主など、聞かずともわかる。御力を手放されても尚、何もかも見通されているのだろうか。ありがたいことだ。
……そう、実にありがたいことではあるのだが。
今日はまだ服用していなかったことを思い出し、心に若干の陰りを落とす。
2402「……重雲か。何度も言うがお前を妖魔退治に連れては行かんぞ」
「うぅ……わ、わかってます。そうじゃなくて」
これを届けてほしいと頼まれまして。
そんな言葉と共に差し出された見覚えのある箱を受け取りながら、目の前の膨れ面に気取られぬように息を吐いた。
――連理鎮心散。背負った業障に毒された気と精神を正常なものへと整え、我が我のままでいる為になくてはならないもの。
そろそろ切らしそうだと思っていた矢先の届け物。送り主など、聞かずともわかる。御力を手放されても尚、何もかも見通されているのだろうか。ありがたいことだ。
……そう、実にありがたいことではあるのだが。
今日はまだ服用していなかったことを思い出し、心に若干の陰りを落とす。