sasa
DONE【カイアサ】お題:ご機嫌
第2部第9章第4話の前日譚捏造。(付き合ってない)
#中央主従マンスリーお題
@silver_red_box
透明な花 〈大いなる厄災〉の傷をなんとかしたい、という話はよく聞いていた。触れるまで人が見えないというその傷は、痛みこそないようだが、何をするにも不便だということは想像に難くない。
例えば、声だけが聞こえるときに強く意識したら見えるのではないか。もし触れたあとすぐに眠ったらどうなるだろう。逆に、眠らずにいたらずっと見えるままなのではないか。カインなりにいろいろと考えて試しているようだった。
「あとは、意識のないときに触れられたらどうなるのかは気になるな」
「意識のないときと言うと、眠っている間とか?」
「ああ。でも扉を開けた音で起きちまうから無理かと思って、試してないんだ」
「そうか。眠りが浅いのかな」
「騎士団の頃に染み付いた習性みたいなものだな。野営のときなんかは命に関わるから、生き物の気配が近付くだけで目が覚めるんだ」
2102例えば、声だけが聞こえるときに強く意識したら見えるのではないか。もし触れたあとすぐに眠ったらどうなるだろう。逆に、眠らずにいたらずっと見えるままなのではないか。カインなりにいろいろと考えて試しているようだった。
「あとは、意識のないときに触れられたらどうなるのかは気になるな」
「意識のないときと言うと、眠っている間とか?」
「ああ。でも扉を開けた音で起きちまうから無理かと思って、試してないんだ」
「そうか。眠りが浅いのかな」
「騎士団の頃に染み付いた習性みたいなものだな。野営のときなんかは命に関わるから、生き物の気配が近付くだけで目が覚めるんだ」
sasa
DONE【カイアサ】お題:バラ園(ローズガーデン)
アーサーが北の国から中央の国に戻ってきたばかりの頃の、冬の話。
#中央主従マンスリーお題
@silver_red_box
終わりなき雪の日に 雪の降らない冬は、久しぶりだった。幼い頃のことはあまり定かではないので、ほとんど初めてと言ってもいい。北の国では冬だけではなく一年中雪が積もっていたし、きっとこの国でも冬が来れば雪が降るのだと思っていた。
明け方、こっそりと窓から部屋を抜け出して地面に降りると、しゃり、と細かな氷が割れる音がした。霜柱だ。厚い雪に覆われた北の国ではあまり見ないそれの上を、軽快な音を立てながら歩くのは好きだった。
中央の国では、一年を通して葉を落とさない木があった。冷たい風の中でも健気につぼみを広げる花があった。どんなときでも街には活気が溢れていて、子どもたちはコートを脱ぎ捨てて駆け回っている。
この国が、愛しい。生まれた国。希望を失わず、懸命に生きる人々の暮らす国。美しい風景、明るい人々。穏やかな風、古い遺跡、暗い森、乾いた砂漠、朝露にきらめく草原。
2604明け方、こっそりと窓から部屋を抜け出して地面に降りると、しゃり、と細かな氷が割れる音がした。霜柱だ。厚い雪に覆われた北の国ではあまり見ないそれの上を、軽快な音を立てながら歩くのは好きだった。
中央の国では、一年を通して葉を落とさない木があった。冷たい風の中でも健気につぼみを広げる花があった。どんなときでも街には活気が溢れていて、子どもたちはコートを脱ぎ捨てて駆け回っている。
この国が、愛しい。生まれた国。希望を失わず、懸命に生きる人々の暮らす国。美しい風景、明るい人々。穏やかな風、古い遺跡、暗い森、乾いた砂漠、朝露にきらめく草原。
sasa
DONE【カイアサ】お題:テキスト
#中央主従マンスリーお題
@silver_red_box
more than you could ever know 始まりは、“今日の夕飯はシチューだって”と書いた紙を、簡単な魔法を使ってアーサーのポケットに忍ばせたことだった。
朝食も摂らずに城へ戻ると言う主君がもしその紙きれに気が付いたのなら、魔法舎へ早く帰って来てくれるかもしれない。そんな子供じみた考えで、本当はシチューじゃなかった夕飯を、ネロとカナリアに頼み込んでシチューにしてもらった。もし駄目だったら自分が作ればいいと軽く考えてもいた。
軽い考えで、軽い気持ちで、独りよがりな思いだったのに、アーサーは予定よりも早く帰ってきた。
もし今日は気が付かなくて、後日しわくちゃになって何がなんだかわからなくなってしまった紙を見付けたらどうしようとか、洗濯のときに宮女が見付つけてしまうかもとか、そんなことを食堂に向かう道すがら、ようやく思い付いたときのことだった。
1644朝食も摂らずに城へ戻ると言う主君がもしその紙きれに気が付いたのなら、魔法舎へ早く帰って来てくれるかもしれない。そんな子供じみた考えで、本当はシチューじゃなかった夕飯を、ネロとカナリアに頼み込んでシチューにしてもらった。もし駄目だったら自分が作ればいいと軽く考えてもいた。
軽い考えで、軽い気持ちで、独りよがりな思いだったのに、アーサーは予定よりも早く帰ってきた。
もし今日は気が付かなくて、後日しわくちゃになって何がなんだかわからなくなってしまった紙を見付けたらどうしようとか、洗濯のときに宮女が見付つけてしまうかもとか、そんなことを食堂に向かう道すがら、ようやく思い付いたときのことだった。