more than you could ever know 始まりは、“今日の夕飯はシチューだって”と書いた紙を、簡単な魔法を使ってアーサーのポケットに忍ばせたことだった。
朝食も摂らずに城へ戻ると言う主君がもしその紙きれに気が付いたのなら、魔法舎へ早く帰って来てくれるかもしれない。そんな子供じみた考えで、本当はシチューじゃなかった夕飯を、ネロとカナリアに頼み込んでシチューにしてもらった。もし駄目だったら自分が作ればいいと軽く考えてもいた。
軽い考えで、軽い気持ちで、独りよがりな思いだったのに、アーサーは予定よりも早く帰ってきた。
もし今日は気が付かなくて、後日しわくちゃになって何がなんだかわからなくなってしまった紙を見付けたらどうしようとか、洗濯のときに宮女が見付つけてしまうかもとか、そんなことを食堂に向かう道すがら、ようやく思い付いたときのことだった。
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