raixxx_3am
DONEプロポーズ(あましの)Stand by you. ――「電車乗ったからあと15分くらいで着く。遅くなってごめんな」
すぐさま送信ボタンを押そうとしたところで、ふいに手を止めて続く文言を書き足す。
――「話あるから、起きて待っててほしい」
すっかり慣れたもんだけど、メールって本当に便利だ。文字だけでなら、こんな些細な一言を打ち込むだけでみっともなく指が震えてるだなんてことがちっともばれないんだから。
ドアのすぐ側にもたれ掛かったまま、すっかり見慣れてしまった車窓からの景色と手元のスマホの画面を交互にぼんやりと眺めていれば、ちらちらと輝く画面は新しいメッセージの到着を教えてくれる。
――「お疲れさま、楽しかった? まだ起きてるからだいじょぶだよ、待ってるね」
7698すぐさま送信ボタンを押そうとしたところで、ふいに手を止めて続く文言を書き足す。
――「話あるから、起きて待っててほしい」
すっかり慣れたもんだけど、メールって本当に便利だ。文字だけでなら、こんな些細な一言を打ち込むだけでみっともなく指が震えてるだなんてことがちっともばれないんだから。
ドアのすぐ側にもたれ掛かったまま、すっかり見慣れてしまった車窓からの景色と手元のスマホの画面を交互にぼんやりと眺めていれば、ちらちらと輝く画面は新しいメッセージの到着を教えてくれる。
――「お疲れさま、楽しかった? まだ起きてるからだいじょぶだよ、待ってるね」
raixxx_3am
DOODLEめちゃくちょしょうもないことでケンカしたんだけどなんでこんなに意地張って怒ってたのかお互いにもう思い出せない。かえってきてね!!「ちょっと出るから……外から鍵かけるけど、戸締り気をつけてな。なんかいるもんある」
ドア越しにおそるおそる声をかければ、ぐずぐずにほつれてくすぶった不機嫌そうな声が返される。
「いーけど。ちゃんと帰ってくるよね」
「晩飯までに帰るって」
「二度と帰ってこないとか無しだからね」
いじけた子どもみたいな口ぶりに、思わず苦笑いのひとつも洩らしたくなる。いや、映画とかドラマの見過ぎだろ。週明けには仕事だってあんだぞ。
大げさに肩を落としながら、おそらく涙目になっているのであろう顔をぼんやりと想像してみる。
「……ごめんなほんと、ちょっと頭冷やしてくるだけだから心配すんな。てかきょうのめし当番俺だろ、なんか食いたいもんある?」
1112ドア越しにおそるおそる声をかければ、ぐずぐずにほつれてくすぶった不機嫌そうな声が返される。
「いーけど。ちゃんと帰ってくるよね」
「晩飯までに帰るって」
「二度と帰ってこないとか無しだからね」
いじけた子どもみたいな口ぶりに、思わず苦笑いのひとつも洩らしたくなる。いや、映画とかドラマの見過ぎだろ。週明けには仕事だってあんだぞ。
大げさに肩を落としながら、おそらく涙目になっているのであろう顔をぼんやりと想像してみる。
「……ごめんなほんと、ちょっと頭冷やしてくるだけだから心配すんな。てかきょうのめし当番俺だろ、なんか食いたいもんある?」
raixxx_3am
DOODLE我が家のおっきい猫の話ボクノコネコ 仔犬か仔猫でも飼ってるみたいだよな、だなんてことを思うことが時折ある。
すんすん鼻を擦り付けてあまえてくるのは日常茶飯事だし、休日の朝には毎回のようにこちらのベッドに潜り込んでくる。髪の毛をくしゃしゃなぞると(ふわふわやわらかい感触が指の間をすり抜けていくあたりもなんかそんな感じがする)嬉しそうに瞼を細めて擦り寄ってくるところとか、体温が高いあたりも。あと、たまにかぷかぷ噛んでくるし(別に痛くはないし、目立たないところなら気にはならない。まあ、こちらだっておあいこなところは大いにあるので)
あとはほら、こんなふうに。
「周きょうもおつかれ様、おかえりなさい」
玄関のロックを解除する音を合図にしたように、毎回、パタパタと勢いよく短い廊下を駆けて玄関先までお迎えに来てくれる。律儀だよな、ほんとうに。
1108すんすん鼻を擦り付けてあまえてくるのは日常茶飯事だし、休日の朝には毎回のようにこちらのベッドに潜り込んでくる。髪の毛をくしゃしゃなぞると(ふわふわやわらかい感触が指の間をすり抜けていくあたりもなんかそんな感じがする)嬉しそうに瞼を細めて擦り寄ってくるところとか、体温が高いあたりも。あと、たまにかぷかぷ噛んでくるし(別に痛くはないし、目立たないところなら気にはならない。まあ、こちらだっておあいこなところは大いにあるので)
あとはほら、こんなふうに。
「周きょうもおつかれ様、おかえりなさい」
玄関のロックを解除する音を合図にしたように、毎回、パタパタと勢いよく短い廊下を駆けて玄関先までお迎えに来てくれる。律儀だよな、ほんとうに。
raixxx_3am
DOODLE桐島くんは時々あまい香りを漂わせている。lingering scent「あれ、桐島くん香水つけてる?」
いい匂いだね、どこのやつ? 挨拶がてらにかけられた言葉に、思わずぎこちなく身が強張る。
いや、そんな憶えは――あったな、今朝方に。ぎゅうぎゅう擦り寄って来られたもんな。(なんでもちょっと面倒な用事が控えているせいで気落ちしていたらしく、朝からひっついて来られた)(あまやかしたい気分だったのでこちらとしてもちょうど良かった)
犬か猫の子にでも構うみたいにわしわし撫でてやったら、いつもみたいなけろっと明るいようすになったからこちらとしても安心していたのだけれど――いやはや、想定外だ。
思わず斜め上の方角へとぎこちなく視線を逸らしながら、ぽつりとちいさな声で答える。
「聞いときます、こんど」
571いい匂いだね、どこのやつ? 挨拶がてらにかけられた言葉に、思わずぎこちなく身が強張る。
いや、そんな憶えは――あったな、今朝方に。ぎゅうぎゅう擦り寄って来られたもんな。(なんでもちょっと面倒な用事が控えているせいで気落ちしていたらしく、朝からひっついて来られた)(あまやかしたい気分だったのでこちらとしてもちょうど良かった)
犬か猫の子にでも構うみたいにわしわし撫でてやったら、いつもみたいなけろっと明るいようすになったからこちらとしても安心していたのだけれど――いやはや、想定外だ。
思わず斜め上の方角へとぎこちなく視線を逸らしながら、ぽつりとちいさな声で答える。
「聞いときます、こんど」
raixxx_3am
MOURNINGテストがてらに2020年に出した「春の名前」から再録。あましのとハンドクリームのおはなし。Sent of sweet. どこか懐かしさを滲ませるような、やわらかなあまい香りがふいにかすかに鼻腔をくすぐる。
どこでだろう、たしかに知っている。そのはずなのに。
記憶の糸の端をそっとなぞられるような心地に駆られながら、ひとまずは、と引き寄せられるように読み掛けの本をぱたりと閉じ、ソファの片側へと視線を動かす。まなざしのその先に写るのは、すっかり見慣れてしまったパジャマ姿の恋人のその姿だ。
「……どしたの?」
すこしだけくすぶった無防備な声と共に、まばゆい光を跳ね返すまあるい瞳はぱちぱち、と、ゆっくりのまばたきを繰り返す。
すっかり見慣れてしまった、そのはずなのに――いつだってやわらかに心を縫いとめるかのような優しいその仕草に、心は音も立てずに静かに打ち震える。
2266どこでだろう、たしかに知っている。そのはずなのに。
記憶の糸の端をそっとなぞられるような心地に駆られながら、ひとまずは、と引き寄せられるように読み掛けの本をぱたりと閉じ、ソファの片側へと視線を動かす。まなざしのその先に写るのは、すっかり見慣れてしまったパジャマ姿の恋人のその姿だ。
「……どしたの?」
すこしだけくすぶった無防備な声と共に、まばゆい光を跳ね返すまあるい瞳はぱちぱち、と、ゆっくりのまばたきを繰り返す。
すっかり見慣れてしまった、そのはずなのに――いつだってやわらかに心を縫いとめるかのような優しいその仕草に、心は音も立てずに静かに打ち震える。