ボクノコネコ 仔犬か仔猫でも飼ってるみたいだよな、だなんてことを思うことが時折ある。
すんすん鼻を擦り付けてあまえてくるのは日常茶飯事だし、休日の朝には毎回のようにこちらのベッドに潜り込んでくる。髪の毛をくしゃしゃなぞると(ふわふわやわらかい感触が指の間をすり抜けていくあたりもなんかそんな感じがする)嬉しそうに瞼を細めて擦り寄ってくるところとか、体温が高いあたりも。あと、たまにかぷかぷ噛んでくるし(別に痛くはないし、目立たないところなら気にはならない。まあ、こちらだっておあいこなところは大いにあるので)
あとはほら、こんなふうに。
「周きょうもおつかれ様、おかえりなさい」
玄関のロックを解除する音を合図にしたように、毎回、パタパタと勢いよく短い廊下を駆けて玄関先までお迎えに来てくれる。律儀だよな、ほんとうに。
「おうおつかれ。きょう発表だったんだろ、うまく行った?」
「ん、」
得意げな満面の笑みと共にダブルピースがかざされる。
「周のおかげだよ、ありがとうね」
にっこりと胸を張って、いかにも撫でられ待ちだと言わんばかりに期待に満ちたまなざしで見つめてくるのだから、たまらない気持ちにさせられてしまう。素直さは美徳ってこういうことを言うんだよな、きっと。
「おまえが頑張ったからだろ、そんなん」
「そうだけどさ、そんだけじゃないよ」
すっかりお馴染みの手つきでくしゃくしゃとやわらかい髪をなぞれば(そういえば猫っ毛っていうよな)、肩口にぐりぐり顔を埋めて、ぎゅうっと背中に腕を回して甘えてくる。
ずっしりした骨の感触とぬくもり、ぴったり重なり合う不揃いな心音、ほのかにたちのぼるみたいなあまい香りに混じり合った夕飯の匂い――言葉になんてなりようもないたまらない気持ちにさせられるのは、たとえばこんな瞬間だ。
「晩御飯すぐ出来るからね、塩鯖とほうれん草のおひたし。あと、きのうの卵焼きとお豆腐のお味噌汁ね」
「おう、ありがとな」
答える代わりのように、申し訳程度にワックスで整えた髪をくしゃくしゃ掻き回される。
「……ただいま、忍」
「ん、おかえりなさい」
じいっと見つめ合いながら、ありふれた言葉でしか伝えられない想いを届け合う。
うちで飼っている猫は、自慢じゃないけれど中々いい猫だ。
共通言語があるおかげで意思疎通には困らないし、気まぐれに甘えてくるけれどこちらの意思はちゃんと尊重してくれる。
俺と違って素直だし、可愛げもある。毛並みはやわらかいし、抱きしめると温かくて気持ちいい。
なによりものいちばんに愛おしいのは、毎日毎晩こうして「おかえり」を言ってくれるところ。