heigh2xx
MOURNING6月なので結婚前夜話。京→関
式三献 祝杯をあげようということになった。
知人の結婚の祝いである。
この時代だ、盛大なことはできないしするつもりもないよと笑う知人に、友人が
「じゃあ神であるこの僕が祝ってあげよう!」
と無謀な酒盛りを計画したのであった。もちろん取り仕切るのは神主であるお前ダッ!と、律儀に巻き込んでくれた。ありがたくて涙が出る。
祝いの席と言っても蓋を開ければ見知った面子のみの気安い宴会である。要は榎木津が酒を浴びたいだけなのだ。無論知人にはこの方がきっと喜ばしいことなのだろう。顔を真っ赤にしながら勧められるだけ酒をあけている。
「凶悪すぎる顔をしているぞお前」
宴もたけなわ、ふと背後から投げつけられた言葉にどきりとした。振り返ると、先ほどまで目の前で木場の旦那と肩を組みあっていた榎木津が鋭い目つきで自分を見ていた。
1659知人の結婚の祝いである。
この時代だ、盛大なことはできないしするつもりもないよと笑う知人に、友人が
「じゃあ神であるこの僕が祝ってあげよう!」
と無謀な酒盛りを計画したのであった。もちろん取り仕切るのは神主であるお前ダッ!と、律儀に巻き込んでくれた。ありがたくて涙が出る。
祝いの席と言っても蓋を開ければ見知った面子のみの気安い宴会である。要は榎木津が酒を浴びたいだけなのだ。無論知人にはこの方がきっと喜ばしいことなのだろう。顔を真っ赤にしながら勧められるだけ酒をあけている。
「凶悪すぎる顔をしているぞお前」
宴もたけなわ、ふと背後から投げつけられた言葉にどきりとした。振り返ると、先ほどまで目の前で木場の旦那と肩を組みあっていた榎木津が鋭い目つきで自分を見ていた。
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DOODLEイベント用書きおろしSS京→関←敦です
関口巽と云ふ男「関口巽は狡い男である」
彼との出会いは彼が学生の時分であった。
記憶にあるのはあどけない笑顔である。初対面の自分にもふわりと泡のような笑顔を向ける、いつでも消え入りそうな男だと───幼心にも思ったものであった。
その頃の、そしてそれからの自分はまぁ自分で思うのもなんだというほどにはそれなりの見た目だったのだろう。見た目だけを見る男が昔から絶えなかった。しかし、彼の目からはそんな欲という欲は全く感じることはなかったのだ。それは、<他人の男>からの視線に辟易していた自分にはわずかな光でもあった。
「関口先生、今度中野のお祭りがあるんですよ」
夕食を平らげ、食後のお茶の準備をしながら私──中禅寺敦子はさりげなく背後の男に声をかけた。義姉は所用で当面家を離れており、料理をしない兄のためにわざわざ夕飯の支度をしに中野に出向いたらそこには遊びに来ていた関口がいたのだった。夕飯を一緒にどうですかと誘っても何度も断られたが、兄が助け舟を出してくれてここに至るのであった。
5444彼との出会いは彼が学生の時分であった。
記憶にあるのはあどけない笑顔である。初対面の自分にもふわりと泡のような笑顔を向ける、いつでも消え入りそうな男だと───幼心にも思ったものであった。
その頃の、そしてそれからの自分はまぁ自分で思うのもなんだというほどにはそれなりの見た目だったのだろう。見た目だけを見る男が昔から絶えなかった。しかし、彼の目からはそんな欲という欲は全く感じることはなかったのだ。それは、<他人の男>からの視線に辟易していた自分にはわずかな光でもあった。
「関口先生、今度中野のお祭りがあるんですよ」
夕食を平らげ、食後のお茶の準備をしながら私──中禅寺敦子はさりげなく背後の男に声をかけた。義姉は所用で当面家を離れており、料理をしない兄のためにわざわざ夕飯の支度をしに中野に出向いたらそこには遊びに来ていた関口がいたのだった。夕飯を一緒にどうですかと誘っても何度も断られたが、兄が助け舟を出してくれてここに至るのであった。
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DOODLE京関もう終わったけど汗の日ということでよくある話を。
汗 暑い
茹だるような暑さである。
もう九月に差し掛かろうというのにこの暑さは気がくじける。原稿を前にしても汗で腕に原稿用紙が張り付いて気になって仕事が進まなかった。
自宅の窓硝子から差し込む日差しの熱々しさを憎らしく見つめ、したたる汗にももう構うことなくただ垂れ流している。
「おい、関口くん、いるかい」
玄関口から聞きなれた声がする。しかし返事をする気力もない。妻は夕刻まで戻らない。まぁ勝手に上がってくるだろう───そんな適当な気持ちで書斎でごろりと横になった。
「まさか死んでいるんじゃないだろうな」
「勝手に殺さないでくれ」
頭上から落ち着いた低い声が聞こえる。私はこの声が───好きだ。
「大丈夫か?熱射病じゃないだろうな」
1207茹だるような暑さである。
もう九月に差し掛かろうというのにこの暑さは気がくじける。原稿を前にしても汗で腕に原稿用紙が張り付いて気になって仕事が進まなかった。
自宅の窓硝子から差し込む日差しの熱々しさを憎らしく見つめ、したたる汗にももう構うことなくただ垂れ流している。
「おい、関口くん、いるかい」
玄関口から聞きなれた声がする。しかし返事をする気力もない。妻は夕刻まで戻らない。まぁ勝手に上がってくるだろう───そんな適当な気持ちで書斎でごろりと横になった。
「まさか死んでいるんじゃないだろうな」
「勝手に殺さないでくれ」
頭上から落ち着いた低い声が聞こえる。私はこの声が───好きだ。
「大丈夫か?熱射病じゃないだろうな」