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DOODLE漣タケ、海にて人魚の歌 人魚姫の物語が、とてもしあわせとは言えない終わり方だと知ったのは、つい最近のことであった。
一月の空気は凛と冷たく、凛という漢字が冬生まれであることを嫌でも感じさせる。寒さに思わず丸まってしまう背中を伸ばしながら、タケルは海を目指していた。
電車は少し混んでいた。冬休みが開けたからか、日常は通常運転に戻ったようだ。この時期の座席はあたたかい。電車そのものが暖房器具のようだった。
いくつか乗り継ぎをしていくうちに、窓の外に海が広がった。人工的に切り取られた海はそれでも壮大で、水平線に圧倒されてしまう。
駅に降りても、誰も海に心を躍らせていなかった。地元の人にとっては当たり前の光景であるし、冬にわざわざ海を求める人は稀有な存在だ。黒や灰色のコートが電車から排出されたり飲み込まれていく様は、波の音に反してなんと無機質なことだろう。
5753一月の空気は凛と冷たく、凛という漢字が冬生まれであることを嫌でも感じさせる。寒さに思わず丸まってしまう背中を伸ばしながら、タケルは海を目指していた。
電車は少し混んでいた。冬休みが開けたからか、日常は通常運転に戻ったようだ。この時期の座席はあたたかい。電車そのものが暖房器具のようだった。
いくつか乗り継ぎをしていくうちに、窓の外に海が広がった。人工的に切り取られた海はそれでも壮大で、水平線に圧倒されてしまう。
駅に降りても、誰も海に心を躍らせていなかった。地元の人にとっては当たり前の光景であるし、冬にわざわざ海を求める人は稀有な存在だ。黒や灰色のコートが電車から排出されたり飲み込まれていく様は、波の音に反してなんと無機質なことだろう。
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DOODLE漣タケみぞれ みぞれが世界をゆるゆると冷やしていく。ぐしゃぐしゃになった地面を喜ぶ者は誰もおらず、ならばいっそしっかりと雪が降って欲しいとすら願う。交通網が混乱することはわかった上でだ。それほどまでに、みぞれは人々から嫌われている。
でも、と思う。窓ガラス越しに見るそれは、なんだか氷砂糖みたいで綺麗だ。街灯がじんわりと滲んで、その仄かな明るさがろうそくみたいで。
「冷えますねえ」
タクシー運転手は独り言のようにそう言った。俺は「そうですね」と答えて、シートベルトに指を滑らせる。冬のタクシーはいつも、どこか寂しい。みぞれが車体を叩く。運転手はおかまいなしに道を進んでくれるから、俺は安心して背もたれに身を預けた。
2608でも、と思う。窓ガラス越しに見るそれは、なんだか氷砂糖みたいで綺麗だ。街灯がじんわりと滲んで、その仄かな明るさがろうそくみたいで。
「冷えますねえ」
タクシー運転手は独り言のようにそう言った。俺は「そうですね」と答えて、シートベルトに指を滑らせる。冬のタクシーはいつも、どこか寂しい。みぞれが車体を叩く。運転手はおかまいなしに道を進んでくれるから、俺は安心して背もたれに身を預けた。
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DOODLE漣タケ、寒空の下西高東低 季節風というのだったか。北風が頬を切り裂くように吹いていく。おそらくこちらが北で間違いないと思う。太陽の照りが頼りないから。
指先が氷のように冷たいとは表現するものの、本当に氷と同じだけ冷たいのかは比べたことがない。チビの家の冷蔵庫の製氷皿を思い出す。氷が詰まってたり、詰まってなかったりする、白い受け皿。夏に「コーラを入れたらコーラ味の氷になって美味いんじゃないか」と二人して閃いたが、出来上がったそれは薄まった味でたいして美味しくはなかった。あれはもう半年前の出来事なのか。カレンダーは下半期になった途端に早く走り出すような気がする。
チビとの待ち合わせ場所の目印はポストだった。赤い四角は街中にうまく溶け込み、けれど一度目立つと途端に目を引く。何かの合図みたいだと思った。ポストの隣に立った時、横を歩いていた親子連れが「ここまで来たらだいじょうぶ」と言っていた。なにかから逃げているのかと思わせる言葉だ。でも、きっとポストが境目だったのだろう。なにかから守ってくれるおまじないなのだろう。
1983指先が氷のように冷たいとは表現するものの、本当に氷と同じだけ冷たいのかは比べたことがない。チビの家の冷蔵庫の製氷皿を思い出す。氷が詰まってたり、詰まってなかったりする、白い受け皿。夏に「コーラを入れたらコーラ味の氷になって美味いんじゃないか」と二人して閃いたが、出来上がったそれは薄まった味でたいして美味しくはなかった。あれはもう半年前の出来事なのか。カレンダーは下半期になった途端に早く走り出すような気がする。
チビとの待ち合わせ場所の目印はポストだった。赤い四角は街中にうまく溶け込み、けれど一度目立つと途端に目を引く。何かの合図みたいだと思った。ポストの隣に立った時、横を歩いていた親子連れが「ここまで来たらだいじょうぶ」と言っていた。なにかから逃げているのかと思わせる言葉だ。でも、きっとポストが境目だったのだろう。なにかから守ってくれるおまじないなのだろう。
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DOODLE漣タケ、悪夢を見た夜中の話月の話 トラックに轢かれる夢を見て飛び起きる。
妙に生々しい夢だった。眩すぎるライトも、叫ぶようなブレーキの音も、耳を劈くようなクラクションも。
いや。夢じゃなかったのかもしれない。俺は以前、事故に遭っている。その時の記憶はとっくに失っていたが、脳みそのどこかに忘れてきていただけなのかもしれない。はあ、と深いため息を吐いた。こういう時は深呼吸だ。布団がしっとりと水分を含んだように重く感じる。
動悸が治まっていくと、隣にアイツが寝ていたことを思い出す。そうだ、コイツは夕飯をたかりに我が家に押しかけ、俺の分まで総菜のハンバーグを食べ尽くして、悠々と寝こけているのだった。いびきが部屋に響くのを聞きながら、よくこの中で眠れたな、と我ながら感心した。俺はアイツの鼻を摘まんだ。
2057妙に生々しい夢だった。眩すぎるライトも、叫ぶようなブレーキの音も、耳を劈くようなクラクションも。
いや。夢じゃなかったのかもしれない。俺は以前、事故に遭っている。その時の記憶はとっくに失っていたが、脳みそのどこかに忘れてきていただけなのかもしれない。はあ、と深いため息を吐いた。こういう時は深呼吸だ。布団がしっとりと水分を含んだように重く感じる。
動悸が治まっていくと、隣にアイツが寝ていたことを思い出す。そうだ、コイツは夕飯をたかりに我が家に押しかけ、俺の分まで総菜のハンバーグを食べ尽くして、悠々と寝こけているのだった。いびきが部屋に響くのを聞きながら、よくこの中で眠れたな、と我ながら感心した。俺はアイツの鼻を摘まんだ。
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DOODLE漣タケ、レッカイ花束 退屈なレトロ映画を見た。「それらしくしよう」とポップコーンをわざわざ用意して見たのに、ありきたりなカーチェイスも歯の浮くベッドシーンも、俺たちのキスでかき消えた。
俺の部屋のソファベッドを占領しているレッカは何度も大あくびをしていたが、大人しく最後まで見ていた。キスの促進剤だとでも思っていたのだろう。エンドロールが流れた途端覆いかぶさってきたので確信する。映画を見ようと言った俺を否定しなかったのも、大人しく銃撃戦を見ていたのも、全ては俺を食べるためだったのだ。
「コーラの味」
バードキスを繰り返しているうち、そう言われた。だって映画にはポップコーン、ポップコーンにはコーラなんだろう? 俺たちは映画館で映画を見たことがない。
1347俺の部屋のソファベッドを占領しているレッカは何度も大あくびをしていたが、大人しく最後まで見ていた。キスの促進剤だとでも思っていたのだろう。エンドロールが流れた途端覆いかぶさってきたので確信する。映画を見ようと言った俺を否定しなかったのも、大人しく銃撃戦を見ていたのも、全ては俺を食べるためだったのだ。
「コーラの味」
バードキスを繰り返しているうち、そう言われた。だって映画にはポップコーン、ポップコーンにはコーラなんだろう? 俺たちは映画館で映画を見たことがない。
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DOODLE漣タケ、ファンクロ花冠 月が落っこちてくるとか言って、街は混乱していた。
ばかだなあ、とボクは笑う。月なんて落っこちてくるわけがないのに。だって宇宙でプカプカ浮いて、太陽の光を反射しているだけの、無力な星なんだから。
「ね、ファング、そう思うでしょう?」
ベッドの隣に寝ころぶダーリンは、側に転がるシケモクを咥えて「ああ」と答えた。この人にとってボクを抱くことなんてただの作業でしかなくて、どうにも情は湧かないのだという。それでも吐精は出来るんだから、人間って面白いね。
「月はもともと、いつ落ちてきてもおかしくねえんだ。今更慌てすぎなんだよ」
「ええ、そうなの?」
ファングがジョークを言う時は、死体を豚のように蹴り転がすときだけだと相場が決まっていた。テメェのイチモツを切り取ってお口に詰め込んで身体じゅうほじくってやろうか? なんて、下品なこと、ボクは言えないや。その時はマイナスドライバーで始末したっけ。うーん、センスがない。
1329ばかだなあ、とボクは笑う。月なんて落っこちてくるわけがないのに。だって宇宙でプカプカ浮いて、太陽の光を反射しているだけの、無力な星なんだから。
「ね、ファング、そう思うでしょう?」
ベッドの隣に寝ころぶダーリンは、側に転がるシケモクを咥えて「ああ」と答えた。この人にとってボクを抱くことなんてただの作業でしかなくて、どうにも情は湧かないのだという。それでも吐精は出来るんだから、人間って面白いね。
「月はもともと、いつ落ちてきてもおかしくねえんだ。今更慌てすぎなんだよ」
「ええ、そうなの?」
ファングがジョークを言う時は、死体を豚のように蹴り転がすときだけだと相場が決まっていた。テメェのイチモツを切り取ってお口に詰め込んで身体じゅうほじくってやろうか? なんて、下品なこと、ボクは言えないや。その時はマイナスドライバーで始末したっけ。うーん、センスがない。
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DOODLE漣タケ、あけおめ呼んだだけ 元旦は一緒に初日の出を見よう、と言ってみたら、なんでだよ、と言われてしまった。なんでと言われても。
「オマエと一緒に特別を味わいたいからだ」
アイツのことだから、太陽なんていつ見ても同じだろ、くらいのことは言いそうだった。けれどアイツはクリスマスの残りのチキンを食べながら、まあいいけど、と呟いた。特別、という言葉が、なんだかアイツのなかですとんと落ちたようだった。
トクベツ、というのは、日常のなかの非日常を味わうのに便利な言葉である。値段の高かった服を着るとか、牛肉を食べるとか、入浴剤を入れるとか。アイツがそのいちいちに反応しているかはわからないが、俺が大切に思っているものを踏みにじったりはしない。
1220「オマエと一緒に特別を味わいたいからだ」
アイツのことだから、太陽なんていつ見ても同じだろ、くらいのことは言いそうだった。けれどアイツはクリスマスの残りのチキンを食べながら、まあいいけど、と呟いた。特別、という言葉が、なんだかアイツのなかですとんと落ちたようだった。
トクベツ、というのは、日常のなかの非日常を味わうのに便利な言葉である。値段の高かった服を着るとか、牛肉を食べるとか、入浴剤を入れるとか。アイツがそのいちいちに反応しているかはわからないが、俺が大切に思っているものを踏みにじったりはしない。
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DOODLE漣タケ。タケルの看病頬 チビから合い鍵を渡されたのが一ヶ月前だった。これから冬を迎えるんだから、外で寝てたら風邪ひくだろ、毎日円城寺さんの家に泊まるのだっていい加減迷惑だろうし、と。
「らーめん屋は何も言わねえぞ」
「遠方ロケだってあるだろ。しょうがないから俺のところに泊めてやるんだ、ありがたく思え」
「まだチビの厄介になるなんて言ってねえ!」
そんなことを言いつつ、でも寝床がひとつ増えるのはありがたい、と思った。選択肢が増えるというのは、生きていく上で重要だ。悩んだ時、迷ったときに、正解への手段が一つ増えるのだから。
それから、何回かチビの家に泊まった。らーめん屋の家と同じくらい狭くてボロいが、雨風が防げればそれでいい。あたたかい布団があればそれでいい。
1996「らーめん屋は何も言わねえぞ」
「遠方ロケだってあるだろ。しょうがないから俺のところに泊めてやるんだ、ありがたく思え」
「まだチビの厄介になるなんて言ってねえ!」
そんなことを言いつつ、でも寝床がひとつ増えるのはありがたい、と思った。選択肢が増えるというのは、生きていく上で重要だ。悩んだ時、迷ったときに、正解への手段が一つ増えるのだから。
それから、何回かチビの家に泊まった。らーめん屋の家と同じくらい狭くてボロいが、雨風が防げればそれでいい。あたたかい布団があればそれでいい。
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DOODLEれおたいクリスマスデートマーキング まあクリスマスだからと言って何があるわけでもない。今日も今日とて部活がある。クラスメイトの女子たちはプレゼントを交換しあったりしていたが、男からしたら無縁の世界だ。街中がきらきらしているのも、季節の催し物だな、と思うくらいで。
ふっきれたとはいえ、マネージャーの方は見ないようにしている。たとえばこの後彼氏とデートなのかな、と思うことほど、空しいものはないからだ。リストバンドで汗を拭きながら、体育館の時計をちらりと見る。大きいアナログ時計。電池はいつ交換しているんだろう。そもそも電池なのか。
部活が終わったら会おうぜだなんて連絡が来たのは昨日、クリスマスイブのことだった。玲央先輩のことだから大学でもモテてしょうがないんじゃないかと思い連絡を控えていたのに、クリスマスを俺なんかと過ごして大丈夫なのか。聖なる夜に告白したい女性なんて山ほどいるはずだ。
2040ふっきれたとはいえ、マネージャーの方は見ないようにしている。たとえばこの後彼氏とデートなのかな、と思うことほど、空しいものはないからだ。リストバンドで汗を拭きながら、体育館の時計をちらりと見る。大きいアナログ時計。電池はいつ交換しているんだろう。そもそも電池なのか。
部活が終わったら会おうぜだなんて連絡が来たのは昨日、クリスマスイブのことだった。玲央先輩のことだから大学でもモテてしょうがないんじゃないかと思い連絡を控えていたのに、クリスマスを俺なんかと過ごして大丈夫なのか。聖なる夜に告白したい女性なんて山ほどいるはずだ。
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DOODLEコーギーを追いかける漣タケコーギー、あるいは食パン 目の前を食パンが歩いていた。
いや、違う。犬だ。コーギーと言ったか。短い足で一生懸命に歩いている姿がかわいらしい。
「なんか食パンみてー」
隣のアイツも同じ発想のようだ。見てると腹が減るな。赤いリードの先の、いわゆる「お母さん」みたいな人は歩くのがゆっくりめで、コーギーは先へ先へと走りたそうで、散歩を代わってやりたかった。俺ならいくらでも走らせられるから、あなたは休んでいてくれていい、と声をかけたいのを我慢し、隣のアイツのあくびを聞く。
「あー、腹減る」
「おい、聞こえるから」
歩くスピードは俺たちの方が早い。コーギーとお母さんを追い抜かす時、少し名残惜しかった。ずっとあの食パンを見ていたい。
その時、ブチッと、何かが切れる音がした。
899いや、違う。犬だ。コーギーと言ったか。短い足で一生懸命に歩いている姿がかわいらしい。
「なんか食パンみてー」
隣のアイツも同じ発想のようだ。見てると腹が減るな。赤いリードの先の、いわゆる「お母さん」みたいな人は歩くのがゆっくりめで、コーギーは先へ先へと走りたそうで、散歩を代わってやりたかった。俺ならいくらでも走らせられるから、あなたは休んでいてくれていい、と声をかけたいのを我慢し、隣のアイツのあくびを聞く。
「あー、腹減る」
「おい、聞こえるから」
歩くスピードは俺たちの方が早い。コーギーとお母さんを追い抜かす時、少し名残惜しかった。ずっとあの食パンを見ていたい。
その時、ブチッと、何かが切れる音がした。
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DOODLEリクエスト 片想いを拗らせてる漣タケまさかそんな 近頃、チビがウゼぇ。
見ていると以前よりイライラする。オレ様以外の誰かと喋っていると特に。オレ様には見せない表情で、オレ様には聞かせない声で接しているのを見ると、どうにも心臓がムカムカする。
「なあ。オレ様以外と喋んな」
ある日、チビと二人きりになったタイミングで、それをぶつけた。何と表現したらいいのかわからず、ただそうとしか言えなかった。
チビはきょとんとしたあとムスッとして、俺からプイと顔を背ける。
「無理に決まってるだろ。仕事の話だってあるし、俺が誰と仲良くしようと俺の勝手だ」
尤もだ。尤もではあることは、理解する。でもそれとこれとは別なのだ。ムカムカする。イライラする。
「オレ様だって他のヤツと話してやっからな」
1888見ていると以前よりイライラする。オレ様以外の誰かと喋っていると特に。オレ様には見せない表情で、オレ様には聞かせない声で接しているのを見ると、どうにも心臓がムカムカする。
「なあ。オレ様以外と喋んな」
ある日、チビと二人きりになったタイミングで、それをぶつけた。何と表現したらいいのかわからず、ただそうとしか言えなかった。
チビはきょとんとしたあとムスッとして、俺からプイと顔を背ける。
「無理に決まってるだろ。仕事の話だってあるし、俺が誰と仲良くしようと俺の勝手だ」
尤もだ。尤もではあることは、理解する。でもそれとこれとは別なのだ。ムカムカする。イライラする。
「オレ様だって他のヤツと話してやっからな」
komaki_etc
DOODLEリクエスト ライブ会場のトラブルに巻き込まれるタケル♀を助ける漣光のうず(女体化) THE 虎牙道のミニライブは、つつがなく進行していた。ユニット曲をいくつか披露し、トークを挟んで、今は円城寺さんのソロ曲だ。観客たちは泣いたり笑ったりしながら、私たちを見守っている。ペンライトの色とりどりが、私たちの勇気に繋がる。それに応えねばと武者震いをして、裏でアイツと目くばせをした。
円城寺さんのソロと、私のソロと、アイツのソロを、ひと繋ぎにする演出だ。じゃあ、行ってくる、しくんなよ、とアイツに頷いて、アイツが目で返事をしたのを見届けてから、私はステージへ駆け出した。円城寺さんのハケるタイミングに合わせるために。
ポジションゼロで拳をあわせ、円城寺さんがハケて、マイク前に立った時。
バッと、視界が真っ暗になった。
1414円城寺さんのソロと、私のソロと、アイツのソロを、ひと繋ぎにする演出だ。じゃあ、行ってくる、しくんなよ、とアイツに頷いて、アイツが目で返事をしたのを見届けてから、私はステージへ駆け出した。円城寺さんのハケるタイミングに合わせるために。
ポジションゼロで拳をあわせ、円城寺さんがハケて、マイク前に立った時。
バッと、視界が真っ暗になった。
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DOODLEリクエスト 待ち合わせに遅れる漣タケまちあわせ 朝のロードワーク中に、それは訪れる。何度事務所で見た光景か、靴紐が切れたのだ。俺は無様にもバランスを崩し、顔面から転ぶ。
「いっつ……」
顔を拭うと、微かに血がついていた。ああ、アイドルなのに顔に傷をつけちまった。これは早く手当しなければ。急いで家に帰ろうとするも、膝もすりむいており、じんじんと痛みを孕んでいて、歩くのがやっとだった。
やっちまったな、と呟きながら、ゆっくりゆっくり家に帰った。よれよれになりながら帰宅し、シャワーを浴びて砂と血を落とし、消毒をする。酷く沁みるのは罰のように感じた。絆創膏をひざと鼻に貼った。鼻のあたまに絆創膏を貼るのは久しぶりだ。
「あ、やべ」
今日はアイツと待ち合わせをしているんだった。とはいえどこかにメシを食いに行こうというだけで、予約をするようなデートではない。ただ時間と場所を決めて、一緒に歩いていこうという、それだけだった。
1076「いっつ……」
顔を拭うと、微かに血がついていた。ああ、アイドルなのに顔に傷をつけちまった。これは早く手当しなければ。急いで家に帰ろうとするも、膝もすりむいており、じんじんと痛みを孕んでいて、歩くのがやっとだった。
やっちまったな、と呟きながら、ゆっくりゆっくり家に帰った。よれよれになりながら帰宅し、シャワーを浴びて砂と血を落とし、消毒をする。酷く沁みるのは罰のように感じた。絆創膏をひざと鼻に貼った。鼻のあたまに絆創膏を貼るのは久しぶりだ。
「あ、やべ」
今日はアイツと待ち合わせをしているんだった。とはいえどこかにメシを食いに行こうというだけで、予約をするようなデートではない。ただ時間と場所を決めて、一緒に歩いていこうという、それだけだった。
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DOODLE漣タケ厚底 普段と、ぐっと視界が変わった。
足を上げようとすると少し重くて、段差に気をつけねば転んでしまいそうだ。俺は嬉しくて、辺りをキョロキョロ見渡した。
「これが今日の衣装です」
スタイリストさんが運んできた衣装は、クールカジュアルといったところか、ダメージ加工のされたTシャツとズボンで、黒いスニーカーの厚底がずいぶんと高かった。
「みんなの身長差はそんなに変わらないけど、ワイドパンツだから靴の先まで一体化してる感じで、脚が長く見えますよ」
なるほど、鏡の前に立つと、いつもより脚が長い。単純に身長が伸びたと言うより、スタイルが良く見えるんだ。俺はワクワクしてその辺を歩き回った。いつもより低いドアノブ、机、床との距離。
1269足を上げようとすると少し重くて、段差に気をつけねば転んでしまいそうだ。俺は嬉しくて、辺りをキョロキョロ見渡した。
「これが今日の衣装です」
スタイリストさんが運んできた衣装は、クールカジュアルといったところか、ダメージ加工のされたTシャツとズボンで、黒いスニーカーの厚底がずいぶんと高かった。
「みんなの身長差はそんなに変わらないけど、ワイドパンツだから靴の先まで一体化してる感じで、脚が長く見えますよ」
なるほど、鏡の前に立つと、いつもより脚が長い。単純に身長が伸びたと言うより、スタイルが良く見えるんだ。俺はワクワクしてその辺を歩き回った。いつもより低いドアノブ、机、床との距離。
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DOODLE漣タケ数年後ドライブウミネコ 旅行に行けるようになったら、俺たちの世界も広がるんじゃないか。そのために、まずは免許をとろうと思った。
網膜剥離の影響で、片目の視力が少し不安だった。免許をとるには問題ないレベルだが、安心して運転できるようにと、新しく眼鏡も作った。黒いセルの、ボストンタイプ。苦手な座学もこなさないといけないのは想定外で、俺は何度となく教官の目の前でうつらうつらした。
「で、ここドコなんだよ」
「文句があるなら地図を見てくれ」
さっきから同じところをぐるぐるしている気がする(一本道だからそんなことはないはずなのに)。円城寺さんを何度か乗せて練習した助手席に、満を持してアイツを乗せたものの、行きたいところはあるかと聞いたら「うまいもん食えるとこ」の一点張り。俺自身も観光地に詳しくなんかないから、とりあえず海を目指すこととなった。漁港とかの近くなら、うまい店があると信じて。
2386網膜剥離の影響で、片目の視力が少し不安だった。免許をとるには問題ないレベルだが、安心して運転できるようにと、新しく眼鏡も作った。黒いセルの、ボストンタイプ。苦手な座学もこなさないといけないのは想定外で、俺は何度となく教官の目の前でうつらうつらした。
「で、ここドコなんだよ」
「文句があるなら地図を見てくれ」
さっきから同じところをぐるぐるしている気がする(一本道だからそんなことはないはずなのに)。円城寺さんを何度か乗せて練習した助手席に、満を持してアイツを乗せたものの、行きたいところはあるかと聞いたら「うまいもん食えるとこ」の一点張り。俺自身も観光地に詳しくなんかないから、とりあえず海を目指すこととなった。漁港とかの近くなら、うまい店があると信じて。
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DOODLE漣タケ女体化百合、生理満ち引き 腹の鈍痛は、軽い方だ。何故言い切れるかと言うと、今までそれで寝込んだり倒れたりしたことがないからだ。
木の上で日向を堪能している時、股間に違和感を覚える。あ、きたな、と察する。毎月毎月、やっかいなものだ。染みを作るのは恥ずかしいことだと、最初に教わったのは誰からだったか。木から降りて、薬局を目指す。本当は食い物でもないものに出費をしたくない。でもこれがないと生活が出来ない。
十月の秋風は、素肌に心地よかった。朝晩が冷え込むようになってきた。雨だったり晴れだったり忙しい空の上で、女性に苦しみを与えている存在がいるとすれば、いずれぶっとばしてやる、と思う。今に見てろよ、というこの思いも、どうやら生理のせいらしいというのも、最近知った。
2093木の上で日向を堪能している時、股間に違和感を覚える。あ、きたな、と察する。毎月毎月、やっかいなものだ。染みを作るのは恥ずかしいことだと、最初に教わったのは誰からだったか。木から降りて、薬局を目指す。本当は食い物でもないものに出費をしたくない。でもこれがないと生活が出来ない。
十月の秋風は、素肌に心地よかった。朝晩が冷え込むようになってきた。雨だったり晴れだったり忙しい空の上で、女性に苦しみを与えている存在がいるとすれば、いずれぶっとばしてやる、と思う。今に見てろよ、というこの思いも、どうやら生理のせいらしいというのも、最近知った。
komaki_etc
DOODLE漣タケリハビリドン 今年の夏は蚊がいなかった気がする。あまりの暑さに繁殖しなかったのではないか。
グラビア撮影をする時、虫刺されの跡をいつもコンシーラーで消されるのに、最近その時間をとられない。もしかしたら涼しくなってから出てくるかもしれない。それも思いっきりしぶといのが。
そんなことを思いながら仕事をこなし、無事に終えて帰路に着いた。今朝は早かったからロードワークに行けなかった。代わりに一駅歩いて帰ろうか。手前の駅で電車を降りた。改札でICカードがピピッと鳴り、残金が七百円であることを告げる。チャージして、経費精算しないと。苦手なんだよな、経費精算。
大型のスーパーマーケットを何となく一周し、めぼしい新商品もなかったので何も買わずに出てきた。近くの公園の自販機で飲み物を買おう。空は高く、秋風が心地よい。真夏の間はこのまま地球が滅亡するんじゃないかとすら思っていたのに、なんという過ごしやすさか。家族連れとすれ違いながら、ポケットの中の財布を撫でた。
1835グラビア撮影をする時、虫刺されの跡をいつもコンシーラーで消されるのに、最近その時間をとられない。もしかしたら涼しくなってから出てくるかもしれない。それも思いっきりしぶといのが。
そんなことを思いながら仕事をこなし、無事に終えて帰路に着いた。今朝は早かったからロードワークに行けなかった。代わりに一駅歩いて帰ろうか。手前の駅で電車を降りた。改札でICカードがピピッと鳴り、残金が七百円であることを告げる。チャージして、経費精算しないと。苦手なんだよな、経費精算。
大型のスーパーマーケットを何となく一周し、めぼしい新商品もなかったので何も買わずに出てきた。近くの公園の自販機で飲み物を買おう。空は高く、秋風が心地よい。真夏の間はこのまま地球が滅亡するんじゃないかとすら思っていたのに、なんという過ごしやすさか。家族連れとすれ違いながら、ポケットの中の財布を撫でた。
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DOODLE漣タケ濡れていく人々 帰路、雨に降られた。はじめは気のせいかと思う雫のひとつふたつ、そのうちぱらぱらと存在感が大きくなり、やがて道行く人々がみな早歩きになっていく。折り畳み傘がある者はカバンを漁っていた。あいにくと俺は持っていない。
コンビニに寄って傘を買うには、家が近すぎる。早歩きになるほかなかった。リストバンドで瞼をぬぐいながら濡れていく道を急いでいると、見慣れた赤が家の前に突っ立っているのが見えた。
「来てたのか」
「雨」
「わかってる」
アイツはいつも手ぶらでやってくる。寝るためだとかメシにありつきたいからとか、時にはなんの理由もなく。今日はさしずめ雨宿りか。鍵を開けドアを開けるなり、アイツはするりと部屋に身体を滑り込ませた。
1719コンビニに寄って傘を買うには、家が近すぎる。早歩きになるほかなかった。リストバンドで瞼をぬぐいながら濡れていく道を急いでいると、見慣れた赤が家の前に突っ立っているのが見えた。
「来てたのか」
「雨」
「わかってる」
アイツはいつも手ぶらでやってくる。寝るためだとかメシにありつきたいからとか、時にはなんの理由もなく。今日はさしずめ雨宿りか。鍵を開けドアを開けるなり、アイツはするりと部屋に身体を滑り込ませた。
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DOODLE漣タケクーリッシュ 牛乳を飲み切ったので、コンビニに買いに行こうと外に出たら、なんとアイツが玄関前に立っていた。
「んだよチビ、出かけんのかよ」
「ああ、牛乳を買いに……いやそれはどうでもいい、来るなら前もって言えって言ってるだろ」
アイツは家に上がり込んでぬけぬけと留守番をするかと思いきや、俺と一緒にコンビニに連れ立った。小腹が空いたとのことだった。
俺は風呂上りのまま、髪も乾かさずに外に出てしまったので、秋めいてきた風が頭に冷たかった。季節の変わり目は服装に悩む。薄手の上着をそろそろひっぱりださないといけない。
コンビニは煌々と明るかった。外の道に沿って、電灯の向きを工夫してあると聞いたことがある。人は明るいものに寄っていくのだそうだ。俺たちは虫と同じか。
1181「んだよチビ、出かけんのかよ」
「ああ、牛乳を買いに……いやそれはどうでもいい、来るなら前もって言えって言ってるだろ」
アイツは家に上がり込んでぬけぬけと留守番をするかと思いきや、俺と一緒にコンビニに連れ立った。小腹が空いたとのことだった。
俺は風呂上りのまま、髪も乾かさずに外に出てしまったので、秋めいてきた風が頭に冷たかった。季節の変わり目は服装に悩む。薄手の上着をそろそろひっぱりださないといけない。
コンビニは煌々と明るかった。外の道に沿って、電灯の向きを工夫してあると聞いたことがある。人は明るいものに寄っていくのだそうだ。俺たちは虫と同じか。
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DOODLE漣タケ、冬の話しんしん たまに、夜中にふと目覚めることがある。それは夢と夢の狭間だったり、尿意だったりまちまちだけれど、今日はぱちりと覚醒した。
隣に寝ているはずのアイツの気配が感じられなくて横を見やると、アイツは窓辺に立っていた。ああ目覚めたのは外の明かりが眩しかったのかと思ってから、カーテンの隙間から漏れる光がやけに明るいことに気付く。アイツは静かにカーテンの向こうを見つめている。
「どうした」
「起きたのか」
「何かあるのか……雪?」
アイツの隣に立ってカーテンを開けると、窓の外にはちらちらと雪が舞っていた。どうりで寒いわけだ。布団の中にあった温もりと、肌で感じる冷気の差にくしゃみをすると、アイツはフッと鼻で笑った。
1490隣に寝ているはずのアイツの気配が感じられなくて横を見やると、アイツは窓辺に立っていた。ああ目覚めたのは外の明かりが眩しかったのかと思ってから、カーテンの隙間から漏れる光がやけに明るいことに気付く。アイツは静かにカーテンの向こうを見つめている。
「どうした」
「起きたのか」
「何かあるのか……雪?」
アイツの隣に立ってカーテンを開けると、窓の外にはちらちらと雪が舞っていた。どうりで寒いわけだ。布団の中にあった温もりと、肌で感じる冷気の差にくしゃみをすると、アイツはフッと鼻で笑った。
komaki_etc
DOODLE漣タケ♀。女体化生理痛イブプロフェン 久しぶりに鈍痛と憂鬱が降ってきた。
PMSも生理痛も、そんなに重い方ではないのに。ごくたまにこういうことがおきるから、女の身体って不便だ。
「チビ、なに丸くなってんだよ」
ミーティングの予定時刻より早く事務所に来たものの、痛みで動けずにソファに沈みこんでいた。アイツに弱っているところを見せることなどないから、どうやら動揺しているようだ。ざまあねえな、とか、情けねえな、とか言われるくらいはすると思ったのに。
どろり、と股間に嫌な感触が広がる。ソファに染みてないか不安になったが、俺はクッションに顔を押し付けたまま微動だに出来なかった。吐く息が熱い。その熱さに泣きそうになる。生きるということの重みがのしかかる。
2300PMSも生理痛も、そんなに重い方ではないのに。ごくたまにこういうことがおきるから、女の身体って不便だ。
「チビ、なに丸くなってんだよ」
ミーティングの予定時刻より早く事務所に来たものの、痛みで動けずにソファに沈みこんでいた。アイツに弱っているところを見せることなどないから、どうやら動揺しているようだ。ざまあねえな、とか、情けねえな、とか言われるくらいはすると思ったのに。
どろり、と股間に嫌な感触が広がる。ソファに染みてないか不安になったが、俺はクッションに顔を押し付けたまま微動だに出来なかった。吐く息が熱い。その熱さに泣きそうになる。生きるということの重みがのしかかる。
komaki_etc
DOODLE漣タケリクエスト「ある日、〇〇が神になった」カミサマ ある日、漣が神になった。
神なんて、信じてこなかったもんだから、彼が何を言っているのかわからない。
手の中のスズメを生き返らせたからと言って、全知全能になったとは限らないのに。
「……神、って、何するんだ」
「……イノチに、さわれる」
スズメは軽やかに、彼の手の中から飛び立った。公園の隅で潰れていたそれをひょいと彼が拾い上げた時に、俺は咄嗟に「菌がたくさんいるかもしれないぞ」と言ってしまったのだが、そんなことはとても些末であるように感じた。
「リンネテンセーって信じるかよ、チビ」
アイツは黄金色の目をぎょろりとこちらに向け、俺はその視線から動けなくなった。輪廻転生についてなんて、今まで考えたこともない。
2375神なんて、信じてこなかったもんだから、彼が何を言っているのかわからない。
手の中のスズメを生き返らせたからと言って、全知全能になったとは限らないのに。
「……神、って、何するんだ」
「……イノチに、さわれる」
スズメは軽やかに、彼の手の中から飛び立った。公園の隅で潰れていたそれをひょいと彼が拾い上げた時に、俺は咄嗟に「菌がたくさんいるかもしれないぞ」と言ってしまったのだが、そんなことはとても些末であるように感じた。
「リンネテンセーって信じるかよ、チビ」
アイツは黄金色の目をぎょろりとこちらに向け、俺はその視線から動けなくなった。輪廻転生についてなんて、今まで考えたこともない。
komaki_etc
DOODLEレッカイ自家受粉 問題は山積みだった。まずはなにより、シャワーを浴びた方が良いと判断した。
要は、とカイは考える。要は、酔っぱらっていたのだ。日頃の疲れをバーで癒していたにすぎない。そこはこぢんまりとしたバーで、半地下にあって、すこし籠った香りがする。いつもは古いウイスキーを頼むのだが、昨日はビールで喉をうるおしていた。
常連客は自分の他おらず、なかば眠気にすら襲われていた時、レッカはやってきた。まるでここにカイがいることを知っているかのように、当たり前に隣の席に座り、同じモンを、と頼んだ。レッカがビールを飲めるだなんて意外だった。その前に、どうしてここに来たのかを問うた方がいいことに気付く。酔った頭はなかなかうまくまわらない。
2557要は、とカイは考える。要は、酔っぱらっていたのだ。日頃の疲れをバーで癒していたにすぎない。そこはこぢんまりとしたバーで、半地下にあって、すこし籠った香りがする。いつもは古いウイスキーを頼むのだが、昨日はビールで喉をうるおしていた。
常連客は自分の他おらず、なかば眠気にすら襲われていた時、レッカはやってきた。まるでここにカイがいることを知っているかのように、当たり前に隣の席に座り、同じモンを、と頼んだ。レッカがビールを飲めるだなんて意外だった。その前に、どうしてここに来たのかを問うた方がいいことに気付く。酔った頭はなかなかうまくまわらない。
komaki_etc
DOODLEレッカイbeautiful morning 思ったより華奢な手首をしている、と思った。
怠い腰を無理やり押し上げるように起きて、なんだまだ六時かと、と外の明るさに驚いた。昨日は八時くらいに帰ってきたはずなのに、微塵も持ち帰りの仕事が終わっていない。閉まりきっていなかったカーテンを思いっきり左右に開き日光を招き入れると、うう、とベッドから間抜けな声が聞こえた。
レッカは涎を垂らして寝ていた。呑気なもんだ。隣に誰かがいる状態で寝るだなんて、昔の俺たちには考えられなかったのに、いつのまにこうなったやら。寝室から引きあげて、俺は朝のコーヒーを淹れる。
コーヒーが飲めるようになったのも、ここ数年だった気がする。こんな泥水誰が好むんだと初めて飲んだ時は驚いたし、レッカも全く同じことを言っていたっけ。そうだ、アイツと組みだした頃だ。エンドーさんに一緒にコーヒーをご馳走になって、揃って苦い顔をしたんだ。
2048怠い腰を無理やり押し上げるように起きて、なんだまだ六時かと、と外の明るさに驚いた。昨日は八時くらいに帰ってきたはずなのに、微塵も持ち帰りの仕事が終わっていない。閉まりきっていなかったカーテンを思いっきり左右に開き日光を招き入れると、うう、とベッドから間抜けな声が聞こえた。
レッカは涎を垂らして寝ていた。呑気なもんだ。隣に誰かがいる状態で寝るだなんて、昔の俺たちには考えられなかったのに、いつのまにこうなったやら。寝室から引きあげて、俺は朝のコーヒーを淹れる。
コーヒーが飲めるようになったのも、ここ数年だった気がする。こんな泥水誰が好むんだと初めて飲んだ時は驚いたし、レッカも全く同じことを言っていたっけ。そうだ、アイツと組みだした頃だ。エンドーさんに一緒にコーヒーをご馳走になって、揃って苦い顔をしたんだ。
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DOODLEれおたい海の名 大学生になった最初の夏休み、さて何をするかと思っていたところに、玲央先輩から「海行こうぜ、海」と誘われた。海なんて久しく行ってない、夏は毎年バスケの強化合宿があった程度で、レジャーというものにすっかり縁遠くなっている。
「つか今から行こうぜ」
「い、今から!? 水着とか何もないっすけど」
「いーだろべつに。すぐ乾くし」
そういう問題じゃ……と思ったけれど、先輩は立ち上がって「それじゃあ行くぞ」と準備し始めてしまったから、俺は慌てて日焼け止めを探す。昔は美容用品だと思って敬遠していたけれど、今はもう塗らないと火傷レベルで焼けてしまう。近頃の太陽は異常だ。
鎌倉くらいならすぐ行けるだろう、と湘南新宿ラインに飛び乗った。先輩、また少し背が伸びた気がする。俺も追いつきたいとは思うが、彼を越す未来はなかなか想像できなかった。
1676「つか今から行こうぜ」
「い、今から!? 水着とか何もないっすけど」
「いーだろべつに。すぐ乾くし」
そういう問題じゃ……と思ったけれど、先輩は立ち上がって「それじゃあ行くぞ」と準備し始めてしまったから、俺は慌てて日焼け止めを探す。昔は美容用品だと思って敬遠していたけれど、今はもう塗らないと火傷レベルで焼けてしまう。近頃の太陽は異常だ。
鎌倉くらいならすぐ行けるだろう、と湘南新宿ラインに飛び乗った。先輩、また少し背が伸びた気がする。俺も追いつきたいとは思うが、彼を越す未来はなかなか想像できなかった。
komaki_etc
DOODLE漣タケ、真夏8月2日 そういえば、久しく入道雲を見ていない。
昨日、四季さんと隼人さんが、「消えた日本語」という話題で盛り上がっていた。曰く、「午前中の涼しいうちに」と「夕立ち」という言葉らしかった。どちらも夏の季語だろうに、今の異常気象じゃ、言葉も溶けて消えていくのか。
「あちぃ」
「言ってると余計暑くなるぞ」
蝉がジージー鳴いているなか、俺の住むワンルームは外気と冷気の狭間で揺らいでいた。いつもより低い温度にしているのに、じっとりと汗をかいてしまうのは何故だろう。陽炎で窓の外がうねって見える。フライパンを出したら、何もせずに目玉焼きが焼けてしまうんじゃないかと思った。味付けは塩コショウでいいかな、なんてことを考えながら、俺は読んでいた台本をぱたりと閉じた。今日は集中力が続かない。アイツの方に目線を投げると、がつがつとハンバーガーに食らいついていた。
1966昨日、四季さんと隼人さんが、「消えた日本語」という話題で盛り上がっていた。曰く、「午前中の涼しいうちに」と「夕立ち」という言葉らしかった。どちらも夏の季語だろうに、今の異常気象じゃ、言葉も溶けて消えていくのか。
「あちぃ」
「言ってると余計暑くなるぞ」
蝉がジージー鳴いているなか、俺の住むワンルームは外気と冷気の狭間で揺らいでいた。いつもより低い温度にしているのに、じっとりと汗をかいてしまうのは何故だろう。陽炎で窓の外がうねって見える。フライパンを出したら、何もせずに目玉焼きが焼けてしまうんじゃないかと思った。味付けは塩コショウでいいかな、なんてことを考えながら、俺は読んでいた台本をぱたりと閉じた。今日は集中力が続かない。アイツの方に目線を投げると、がつがつとハンバーガーに食らいついていた。
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DOODLEレイタツ/リクエスト:土砂降りの中笑う推しカプShall we dance? 梅雨はカラカラだったくせに、どうして最近、こうも雨が続くかな。店の中にいると爆音のBGMに耳がやられて、雷雨の音までわからない。
深夜二時すぎ、俺とレイジは揃って店を出た。ミツルさんはアフターに出ていたのと、酔いつぶれていた新人たちは黒服に介抱されていたので、何も気にせず退勤できたのが俺たちだけだったのだ。歌舞伎町の地面はしっとりと濡れており、ネオンが反射していた。
「げえ、すげー降ってんじゃねーか」
「なんで傘もってないんすか」
俺の傘に無理やり入ってきたレイジは、「オレの方が背が高いから」という理由をつけて俺から傘を奪った。傘にお互いが入りきるように肩を組まれたけれど、大人二人じゃだいぶはみ出るぞ。この季節の雨はじっとりとしていて、呼吸が籠る。ただでさえ酒臭いのに。
1338深夜二時すぎ、俺とレイジは揃って店を出た。ミツルさんはアフターに出ていたのと、酔いつぶれていた新人たちは黒服に介抱されていたので、何も気にせず退勤できたのが俺たちだけだったのだ。歌舞伎町の地面はしっとりと濡れており、ネオンが反射していた。
「げえ、すげー降ってんじゃねーか」
「なんで傘もってないんすか」
俺の傘に無理やり入ってきたレイジは、「オレの方が背が高いから」という理由をつけて俺から傘を奪った。傘にお互いが入りきるように肩を組まれたけれど、大人二人じゃだいぶはみ出るぞ。この季節の雨はじっとりとしていて、呼吸が籠る。ただでさえ酒臭いのに。
komaki_etc
DOODLEレイタツ(ホスト派生漣タケ)上書き あーあ、と思った。どうしよう、という考えは、しばらく思い浮かばなかった。
シャツに口紅がべっとり付いているなあ、というのは、匂いでわかっていた。朝に寝て昼に起きる生活をしていると、頭がぐらぐらしてくる。どの女の家に泊まったのかも覚えていない。化粧水が乱雑に並べられているユニットバスのトイレに立つと、オレの首筋にくっきりとキスマークが付いていた。
あーあ、というのは、他の女にとやかく言われるのがめんどくさいなあという感情から。どうしようというのは、タツミにとやかく言われるのがめんどくさいなあという感情から。小便を済ませ、寝室に転がっていた消臭剤を全身に吹きかけた。歯磨きがしたい。どの歯ブラシが自分のかわからない。何人男連れ込んでるんだコイツ。
1904シャツに口紅がべっとり付いているなあ、というのは、匂いでわかっていた。朝に寝て昼に起きる生活をしていると、頭がぐらぐらしてくる。どの女の家に泊まったのかも覚えていない。化粧水が乱雑に並べられているユニットバスのトイレに立つと、オレの首筋にくっきりとキスマークが付いていた。
あーあ、というのは、他の女にとやかく言われるのがめんどくさいなあという感情から。どうしようというのは、タツミにとやかく言われるのがめんどくさいなあという感情から。小便を済ませ、寝室に転がっていた消臭剤を全身に吹きかけた。歯磨きがしたい。どの歯ブラシが自分のかわからない。何人男連れ込んでるんだコイツ。
komaki_etc
DOODLE漣タケ七夕 事務所にプラスチックの笹が飾られた。どこかからの貰いものらしい。もふもふえんのみんなが作った折り紙の飾りが揺れる。
七夕は毎年、雨な気がするのに、今年は晴れた。前日の雷雨がひどかったから、雲はそこで全ての雨を流し切ったのかもしれない。靴が乾ききらなくて、今日はサンダルを履いてきた。久しぶりに履いたから、足の甲に日焼け止めを塗るのを忘れてしまいそうだった。
「笹、まだあるから、欲しい人どうぞ」
プロデューサーはそう言って、何人かに小さな笹を分けていた。俺は貰う予定はなかったのに、ほら、タケルも、と半ば押し付けられるような形で貰ってしまった。葛之葉さんから折り紙を数枚分けてもらい、かさかさと葉を鳴らしながら家へ持って帰った。
1904七夕は毎年、雨な気がするのに、今年は晴れた。前日の雷雨がひどかったから、雲はそこで全ての雨を流し切ったのかもしれない。靴が乾ききらなくて、今日はサンダルを履いてきた。久しぶりに履いたから、足の甲に日焼け止めを塗るのを忘れてしまいそうだった。
「笹、まだあるから、欲しい人どうぞ」
プロデューサーはそう言って、何人かに小さな笹を分けていた。俺は貰う予定はなかったのに、ほら、タケルも、と半ば押し付けられるような形で貰ってしまった。葛之葉さんから折り紙を数枚分けてもらい、かさかさと葉を鳴らしながら家へ持って帰った。
カゲン
DOODLE漣タケオンリーお疲れさまでした!そこで配布していたレナダニペーパーです。気持ちジュンブラっぽいものを…!と書きました。
現地では途中でなくなってしまいすみませんでした。
こんなラブコメ描きたいな~ 2
komaki_etc
DOODLE漣タケ、海おかえり 海を初めて見た時のことを覚えていない。
いつからか海というものは当たり前に地球を侵食しているものだという認識はあったし、この星が青いということも知っている。でも、そういった知識のきっかけを思い出せない。なんだったか。夕陽が燃えよるようで、海のくせに赤いじゃないか、と思った記憶がある。焼き尽くされる水平線の向こうに太陽が沈むと、辺りが途端に真っ暗になった。それが妙に切なかった。
らーめん屋かチビの家に勝手に寝泊まりをして、朝になったら適当に出て行く、を繰り返していた。それに慣れきった二人は、今じゃ何も言わずに寝床を与えてくる。夕飯も勝手に出てくる。なんとも力の抜ける。コイツらは泥など食ったことはないのだろう。草むらの夜露の冷たさを知らないのだろう。こんな話はわざわざしないから、オレ様がそれらを知っていることもコイツらは知らない。
1827いつからか海というものは当たり前に地球を侵食しているものだという認識はあったし、この星が青いということも知っている。でも、そういった知識のきっかけを思い出せない。なんだったか。夕陽が燃えよるようで、海のくせに赤いじゃないか、と思った記憶がある。焼き尽くされる水平線の向こうに太陽が沈むと、辺りが途端に真っ暗になった。それが妙に切なかった。
らーめん屋かチビの家に勝手に寝泊まりをして、朝になったら適当に出て行く、を繰り返していた。それに慣れきった二人は、今じゃ何も言わずに寝床を与えてくる。夕飯も勝手に出てくる。なんとも力の抜ける。コイツらは泥など食ったことはないのだろう。草むらの夜露の冷たさを知らないのだろう。こんな話はわざわざしないから、オレ様がそれらを知っていることもコイツらは知らない。
wakitaP_mas
INFO『白詰草の約束』ザザケタ(漣タケ)
A5/30p(表紙含む)/全年齢
400円
小さい頃にケタルから言われたことをなんやかんや覚えてるザザキがもやもやしたりなんだりするお話。ハピエン!少女漫画!
6/30 ジュンブラにて頒布予定です。
スペNo 東5 も03a 10
komaki_etc
DOODLE漣タケ、夏至夏至 アイスクリームのストロベリー味が好きだ。事務所で貰う差し入れでたまたま食べる機会があり、それからすっかりハマってしまった。ほどよい甘さと酸味がみずみずしい。
スーパーに売っているカップアイスもいいが、路面店のアイスクリーム屋で買うものは格別だった。世間では「自分へのご褒美」なんてものが流行っているらしいが、俺にとってはこれかもしれない。ほんの少しの無駄使い、ほんの少しの贅沢。コーンで頼んでしまえば、店から家に帰るまでの間に食べ切れるので、証拠隠滅も早い。
何から隠すのか――そんなの、わかりきっている。アイツだ。
漣は食べ物への執着がすごい。うまそうな匂いを嗅げば臆せず店に入っていくし、遠慮というものを知らないからブッフェ形式のパーティでも全てを食べようとする。
1435スーパーに売っているカップアイスもいいが、路面店のアイスクリーム屋で買うものは格別だった。世間では「自分へのご褒美」なんてものが流行っているらしいが、俺にとってはこれかもしれない。ほんの少しの無駄使い、ほんの少しの贅沢。コーンで頼んでしまえば、店から家に帰るまでの間に食べ切れるので、証拠隠滅も早い。
何から隠すのか――そんなの、わかりきっている。アイツだ。
漣は食べ物への執着がすごい。うまそうな匂いを嗅げば臆せず店に入っていくし、遠慮というものを知らないからブッフェ形式のパーティでも全てを食べようとする。
komaki_etc
DOODLE漣タケ、子育て。赤ちゃんを抱っこしてます抱っこ 人差し指を差し出すと、小さな手のひらで全力で握られる。湿っていてあたたかな、そして少しでも力を加えれば壊れてしまいそうなその行為を数度繰り返し、俺はくすりと笑みをこぼした。おでこにおでこをつけ、鼻に鼻をつけ、愛してる、と鼓動を送る。届いているかはわからないけれど、腕の中の命がこくりこくりと眠りに誘われだし、胸の辺りがほかほかとしてきた。赤ん坊の体温って本当にあたたかい。とん、とん、と背中を叩きながら、身体をゆらゆら振り、入眠を促す。しばらくすると深い呼吸が聞こえてきた。よかった、無事に眠れたようだ。ほ、と一息ついたところで、ガチャリとドアノブが静かに回った。
赤ん坊が生まれてから一番驚いたことは、アイツが乱暴な仕草をしなくなったことだった。相変わらずガサツではあるけれど、ドアを大きな音を立てて開け放ち、足で蹴飛ばして閉める、そういったことを控えている。彼なりに赤ん坊の生活を守っているのがわかった。今日だって、玄関が開く音はわからなかった。
1362赤ん坊が生まれてから一番驚いたことは、アイツが乱暴な仕草をしなくなったことだった。相変わらずガサツではあるけれど、ドアを大きな音を立てて開け放ち、足で蹴飛ばして閉める、そういったことを控えている。彼なりに赤ん坊の生活を守っているのがわかった。今日だって、玄関が開く音はわからなかった。
komaki_etc
DOODLE漣タケ雨粒 雨上がりの匂いに包まれながら、なんとなく公園へ立ち寄った。朝のランニングは一通り終わったし、息切れも汗まみれだ。隣で走っていたアイツも大人しく俺についてきて、がぶがぶと水を飲んでいる。
木々の濡れた匂い。土の匂い。これが六月の匂いだと思う。厚い雲の隙間からさす光が眩しい。
「……息がしづらい」
「籠るよな、なんか、水分が」
肺のなかが湿ってるような心地になる。もうすぐ梅雨だ。陸地で溺れそうになるこの時期が、昔は嫌いだった。リストバンドが汗でじめじめする。
「……チビ」
「……ああ」
ひと雨きそうだ、と伝えたいのだろう。声色で悟り、頷いた。雨の匂いが濃くなった。
この匂いを嗅ぎ分けられない人が世の中にはいるらしい、ということを最近知った。当たり前のことだと思っていたのに、雨が降りそう、と言うと驚かれたりする。アイツも嗅ぎ分けられるタイプだから、俺たちはよっぽどのゲリラ豪雨でなければ雨を避けられることが多い。
1932木々の濡れた匂い。土の匂い。これが六月の匂いだと思う。厚い雲の隙間からさす光が眩しい。
「……息がしづらい」
「籠るよな、なんか、水分が」
肺のなかが湿ってるような心地になる。もうすぐ梅雨だ。陸地で溺れそうになるこの時期が、昔は嫌いだった。リストバンドが汗でじめじめする。
「……チビ」
「……ああ」
ひと雨きそうだ、と伝えたいのだろう。声色で悟り、頷いた。雨の匂いが濃くなった。
この匂いを嗅ぎ分けられない人が世の中にはいるらしい、ということを最近知った。当たり前のことだと思っていたのに、雨が降りそう、と言うと驚かれたりする。アイツも嗅ぎ分けられるタイプだから、俺たちはよっぽどのゲリラ豪雨でなければ雨を避けられることが多い。
komaki_etc
DOODLEれおたい♀ 虎斗にょた白湯 痛みに蹲っていると、上からぱさりと毛布がかけられた。せっかく家に来てくれたのにこのざまだ。大人しく帰ってもらった方がよかったのかもしれない。
家、来れば、という誘いに、「今日は出来ない」と伝えた時の、先輩の顔。ぱちくりと目を瞬かせて、「ああ」と何かに納得したように溜息をついた。
「そういう意味で呼んでねえよ。そんな年中サカッてると思ってんのか」
「だって、毎回するから……」
「辛いなら、やめるけど」
それが、毎回の行為をさすのか、今日行くことをさすのか聞く前に、う、と腹痛に苛まれる。薬を飲んでいるのに、今回は重い。今日、部活が無くてよかった。
「……今日は帰っとくか。送る」
「や、だ」
「は?」
「一人で、いたくない……」
2138家、来れば、という誘いに、「今日は出来ない」と伝えた時の、先輩の顔。ぱちくりと目を瞬かせて、「ああ」と何かに納得したように溜息をついた。
「そういう意味で呼んでねえよ。そんな年中サカッてると思ってんのか」
「だって、毎回するから……」
「辛いなら、やめるけど」
それが、毎回の行為をさすのか、今日行くことをさすのか聞く前に、う、と腹痛に苛まれる。薬を飲んでいるのに、今回は重い。今日、部活が無くてよかった。
「……今日は帰っとくか。送る」
「や、だ」
「は?」
「一人で、いたくない……」
komaki_etc
DOODLEれおたい リクエストドライアイ 虎斗がしぱしぱと強く瞬きをしている。ぎゅっと瞑っては細目を開き、もう一度閉じてしばらく置いてから目を開く、そんなことを繰り返していた。
「どうした」
「ん、なんか……ドライアイっぽくて」
そんなら目薬させばいいだろ、と伝えると、そうだ目薬、とびっくりした声をあげてカバンの中をゴソゴソ探し出した。頭の中にその選択肢がなかったらしい。
「スマホの見過ぎか?」
「そんな見てないっすけどね……バスケ中に見開き過ぎとか……?」
それならオレも目が渇くはずだが、個人差があるのだろうか。生憎とオレは目薬を使う機会がないため持ち歩いてすらいない。
「うわ」
「オマエ目薬下手すぎんだろ」
虎斗の落とした水滴は見事に目の横に落ち、頬を伝う。涙に見えなくもないが、そんな儚い風景とは遠い事象につい面白くて笑ってしまった。
2146「どうした」
「ん、なんか……ドライアイっぽくて」
そんなら目薬させばいいだろ、と伝えると、そうだ目薬、とびっくりした声をあげてカバンの中をゴソゴソ探し出した。頭の中にその選択肢がなかったらしい。
「スマホの見過ぎか?」
「そんな見てないっすけどね……バスケ中に見開き過ぎとか……?」
それならオレも目が渇くはずだが、個人差があるのだろうか。生憎とオレは目薬を使う機会がないため持ち歩いてすらいない。
「うわ」
「オマエ目薬下手すぎんだろ」
虎斗の落とした水滴は見事に目の横に落ち、頬を伝う。涙に見えなくもないが、そんな儚い風景とは遠い事象につい面白くて笑ってしまった。
komaki_etc
DOODLE漣タケ、リクエスト麻婆豆腐大作戦 あ、麻婆豆腐にしよう、と思ったのは、アイツがばたんと家を出て行った瞬間のことだった。
昨日どしゃぶりだったから、靴を乾かしていたのだ。玄関先に新聞紙を敷いて、靴の中にも丸めて入れて。なのにアイツはよく見もせず、その上に自分の濡れた靴を置きやがった。おかげで俺の靴はびしょぬれのままだ。新聞紙も意味を成さない。
そのことについて苦言を呈したら案の定逆切れされて、日々の恨みつらみをついでにぶつけ――鍋の蓋も洗え、風呂に入ったら換気扇をつけろ、エトセトラ、エトセトラ――言い争いになり、アイツが出て行ったという流れだ。別に心配はしていない。夕飯の時間になったら何食わぬ顔で帰ってくることを知っている。
こうなったら、思いっきり辛いモノを食べてやろう。アイツも眉を顰めるくらいのヤツ。唐辛子とか、香辛料をたくさん入れて――そうと決まれば、買い物だ。俺は濡れていない靴を出してから、アイツがびしょぬれのままの靴で出て行ったことに気付く。まあ、外を歩いていれば乾くだろうが、少し気の毒かもしれない。アイツは気にせずズカズカ歩いてるだろうけど。
1678昨日どしゃぶりだったから、靴を乾かしていたのだ。玄関先に新聞紙を敷いて、靴の中にも丸めて入れて。なのにアイツはよく見もせず、その上に自分の濡れた靴を置きやがった。おかげで俺の靴はびしょぬれのままだ。新聞紙も意味を成さない。
そのことについて苦言を呈したら案の定逆切れされて、日々の恨みつらみをついでにぶつけ――鍋の蓋も洗え、風呂に入ったら換気扇をつけろ、エトセトラ、エトセトラ――言い争いになり、アイツが出て行ったという流れだ。別に心配はしていない。夕飯の時間になったら何食わぬ顔で帰ってくることを知っている。
こうなったら、思いっきり辛いモノを食べてやろう。アイツも眉を顰めるくらいのヤツ。唐辛子とか、香辛料をたくさん入れて――そうと決まれば、買い物だ。俺は濡れていない靴を出してから、アイツがびしょぬれのままの靴で出て行ったことに気付く。まあ、外を歩いていれば乾くだろうが、少し気の毒かもしれない。アイツは気にせずズカズカ歩いてるだろうけど。
komaki_etc
DOODLEあんまり漣タケじゃない。タケルがジグソーパズルを漣とやる話ジグソーパズル タケルくんもやってみて、と小さな手のひらから受け取った小ぶりな箱には、たまに見かけることのある夜の絵が描かれていた。姫野さんは「ゴッホの絵、なんだって」と教えてくれて、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「かのん、パパと一緒に一回やったから。なおくんとしろうくんにも貸したの。二人ともむずかしかったって言ってたけど、かのんは二日でできたんだよ」
「へえ、それはすごいな」
どこでこの絵を見たのか思い出せないが、おそらく有名な絵なのだろう。青い夜空が広がる下、街並みの中に、黄色く塗られた店が光っている。あたたたかな、美しい絵だと思った。整然とした石畳はどこか優雅で、星の輝きはやわらかだ。
「タケルくんに貸してあげる!」
2676「かのん、パパと一緒に一回やったから。なおくんとしろうくんにも貸したの。二人ともむずかしかったって言ってたけど、かのんは二日でできたんだよ」
「へえ、それはすごいな」
どこでこの絵を見たのか思い出せないが、おそらく有名な絵なのだろう。青い夜空が広がる下、街並みの中に、黄色く塗られた店が光っている。あたたたかな、美しい絵だと思った。整然とした石畳はどこか優雅で、星の輝きはやわらかだ。
「タケルくんに貸してあげる!」
komaki_etc
DOODLE漣タケ。成人してお酒を飲んでいますオレンジブロッサム 子供の頃に読んだおとぎばなしに出てくる「ぶどう酒」は、あんなにおいしそうだったのに。
大人になって初めて飲んだワインに顔をしかめる。てっきり濃厚なジュースみたいな味がすると思ったのに、渋くて、苦くて、まずかった。少ししょっぱいような、飲み込みにくい味。
「あはは、これはボディが重いからね」
俺にワインを勧めた番組プロデューサーはおかしそうに笑い、俺からグラスを受け取って残りをすいすいと飲み干していく。
「ドイツのアイスワインとかなら飲みやすかったかな」
「いえ、もう……結構です」
大人になったら、自然と酒が飲めるようになると思っていたのだ。身体が環境に適合していくように、胃とか食道も細胞が変化したりして。ビールが苦いという知識はあったけれど、まさかワインもこんなに重苦しい味だとは。匂いだけで脳が揺れそうだ。
2422大人になって初めて飲んだワインに顔をしかめる。てっきり濃厚なジュースみたいな味がすると思ったのに、渋くて、苦くて、まずかった。少ししょっぱいような、飲み込みにくい味。
「あはは、これはボディが重いからね」
俺にワインを勧めた番組プロデューサーはおかしそうに笑い、俺からグラスを受け取って残りをすいすいと飲み干していく。
「ドイツのアイスワインとかなら飲みやすかったかな」
「いえ、もう……結構です」
大人になったら、自然と酒が飲めるようになると思っていたのだ。身体が環境に適合していくように、胃とか食道も細胞が変化したりして。ビールが苦いという知識はあったけれど、まさかワインもこんなに重苦しい味だとは。匂いだけで脳が揺れそうだ。
komaki_etc
DOODLE漣タケ。とりとめない話みかん 店内ではなぜか「ももたろう」の曲がかかっている。俺はその軽快でチープな音楽を聴きながら、野菜売り場で困惑していた。
どうしてもみかんが食べたいのに、高いのだ。想像の倍くらいするやつしか売ってない。あのみずみずしい、爽やかに甘い果実の味を想像して涎があふれ出る。我慢できなくて、仕方なく一番安い詰め合わせを買った。隣に並ぶいちごの粒が、いつもより大きい気がした。
なぜみかんが食べたくなったかと言うとテレビでやっていたからで、なぜテレビを見ていたのかというと、アイツが帰ってこなかったからだ。騒がしいはずの夜がなんだかさみしいというのは随分癪だった。
出演したドラマの打ち上げと言っていた気がする。横柄な態度を取っていないか、迷惑をかけていないか、そんな心配をしていると、自分は彼のなんなのだという気分になってくる。俺が気にすることではないのだ。アイツだってきっとわきまえる時はわきまえる。
2419どうしてもみかんが食べたいのに、高いのだ。想像の倍くらいするやつしか売ってない。あのみずみずしい、爽やかに甘い果実の味を想像して涎があふれ出る。我慢できなくて、仕方なく一番安い詰め合わせを買った。隣に並ぶいちごの粒が、いつもより大きい気がした。
なぜみかんが食べたくなったかと言うとテレビでやっていたからで、なぜテレビを見ていたのかというと、アイツが帰ってこなかったからだ。騒がしいはずの夜がなんだかさみしいというのは随分癪だった。
出演したドラマの打ち上げと言っていた気がする。横柄な態度を取っていないか、迷惑をかけていないか、そんな心配をしていると、自分は彼のなんなのだという気分になってくる。俺が気にすることではないのだ。アイツだってきっとわきまえる時はわきまえる。
komaki_etc
DOODLE漣タケ。ほぼ同棲かさかさ ずっと段ボールを触っていたから、手がかさかさしてきた。指先の水分が全部吸い取られてしまったかもしれない。
近頃、もっぱら買い物を通販で済ませているせいで、家に段ボールが増えた。毎週のゴミ出しの日をすっかり忘れてしまい、かさばっていくそれらに溜息をつくのも飽きた頃、やっと前日に思い出すことが出来たのだ。明日、ランニングに行くときについでに出そうという算段である。
段ボールに張り付いている伝票を剥がしながら、牙崎、という名字が目に留まる。俺のだけじゃなくて、アイツの通販も俺の家に届くようになっていた。アイツ自身が買い物をしているわけじゃない。アダルト商品を買うのに、十八歳以上でないといけなかったから、名前を借りているに過ぎない。だいたいはコンドームだけど、その他にも、数種類、必要なものを買った。本来、入れるべきでないところに入れているわけだから、いろいろ準備が必要なのだ。思い出すのも恥ずかしく、俺は手回しシュレッダーに伝票をつっこむ。
2168近頃、もっぱら買い物を通販で済ませているせいで、家に段ボールが増えた。毎週のゴミ出しの日をすっかり忘れてしまい、かさばっていくそれらに溜息をつくのも飽きた頃、やっと前日に思い出すことが出来たのだ。明日、ランニングに行くときについでに出そうという算段である。
段ボールに張り付いている伝票を剥がしながら、牙崎、という名字が目に留まる。俺のだけじゃなくて、アイツの通販も俺の家に届くようになっていた。アイツ自身が買い物をしているわけじゃない。アダルト商品を買うのに、十八歳以上でないといけなかったから、名前を借りているに過ぎない。だいたいはコンドームだけど、その他にも、数種類、必要なものを買った。本来、入れるべきでないところに入れているわけだから、いろいろ準備が必要なのだ。思い出すのも恥ずかしく、俺は手回しシュレッダーに伝票をつっこむ。
カゲン
MENU◆「戯れよふかし」/A5/P8/単色刷り/中綴じ本/¥200ある冬の日の小話。
事後なので終始裸ですが、えっちな本ではないです。
サンプルの感じのほのぼのイチャラブコメ?な本です。
ぺら本ですが出せてよかったです!当日はよろしくお願いします~~! 5
komaki_etc
DOODLE漣タケ舞妓パロ鳩「なあ、チビ、鳩の目ぇ見えてんのかよ」
「ハト……? なんのことどすか?」
うちにだけ京ことばを使わないアイツを、姉さんなんて呼ぶ義理はない。おかあさんもこれには頭を悩ませているが、お客様の前ではきちんとしているし、何よりも花街一の舞の踊り手であるから、こっそり目を瞑っているのが現状だ。うちとしては、きつく咎めてほしいものだが。
「だぁら、簪だよ。その様子じゃ、まだ目ぇ入れてないみてーだな」
「目……」
ああ、思い出した。そうだ、この稲穂かんざしについている白い鳩には、目を描くことが出来るのだった。ご贔屓さんに目を入れてもらうと出世すると言われている。うちの鳩はまだ真っ白だ。
「だっせえの。貸せよ」
「ちょっ」
1167「ハト……? なんのことどすか?」
うちにだけ京ことばを使わないアイツを、姉さんなんて呼ぶ義理はない。おかあさんもこれには頭を悩ませているが、お客様の前ではきちんとしているし、何よりも花街一の舞の踊り手であるから、こっそり目を瞑っているのが現状だ。うちとしては、きつく咎めてほしいものだが。
「だぁら、簪だよ。その様子じゃ、まだ目ぇ入れてないみてーだな」
「目……」
ああ、思い出した。そうだ、この稲穂かんざしについている白い鳩には、目を描くことが出来るのだった。ご贔屓さんに目を入れてもらうと出世すると言われている。うちの鳩はまだ真っ白だ。
「だっせえの。貸せよ」
「ちょっ」