Tari
DONEぎゆれんです。何かが起こる前の心の揺らぎです。アマレットさんのお誕生日のお祝いに捧げます!
タイトルも、アマレットさんにいただいた美しいお題を使わせていただきましたー!
さゆらぎ さざ波一つない、凪いだ水面。いつもそれを、心の中に浮かべている。怒らず、悲しまず、喜ばず、楽しまず。なにを見ても、聞いても、味わっても、常に心の平静を保つように。
それだけが、苦痛から逃れる方法だった。親を失い、唯一の家族だった姉を失い。優しい姉だった。幸せになるべき人だった。それが自分を庇って、そのささやかな幸福を永遠に喪ってしまったのだから。
この時代にはありきたりな話だろう。もっと壮絶な過去を持つ者だってたくさんいる。だが、悲しみや怒りや悔しさの大きさを、比べることなどできない。自分にとっては、それは身を引き裂かれるような体験だった。
師は言った。己の心を、感情を制御することを覚えろと。感情を野放図に暴れさせては、すぐに呼吸が乱れる。振り下ろす刃が定まらない。
3798それだけが、苦痛から逃れる方法だった。親を失い、唯一の家族だった姉を失い。優しい姉だった。幸せになるべき人だった。それが自分を庇って、そのささやかな幸福を永遠に喪ってしまったのだから。
この時代にはありきたりな話だろう。もっと壮絶な過去を持つ者だってたくさんいる。だが、悲しみや怒りや悔しさの大きさを、比べることなどできない。自分にとっては、それは身を引き裂かれるような体験だった。
師は言った。己の心を、感情を制御することを覚えろと。感情を野放図に暴れさせては、すぐに呼吸が乱れる。振り下ろす刃が定まらない。
Tari
DONE義煉三部作、完結編です!これで最後まで…行ったかな??
朝月夜朝月夜
荒い息遣いが、辺りに響いていた。木々の合間を夜のしじまが満たしていて、白樺の木の隙間から見上げる空も、黒く塗りつぶされている。
息遣いは煉獄のものだった。すでに手負いのようだが、特に深い傷ではなさそうだ。息が上がっているのは、そのせいではないようだった。
すでに鬼は斬り倒されて、隠たちが後始末に忙しく動き回っている。
別の鬼を追っていた冨岡は、そちらを始末して戻ってきて、暗闇を見つめたまま立ち尽くす煉獄を見つけたのだ。
「炎柱様」
隠の一人が声をかける。煉獄は、我に返ったようにその者を見た。
「お怪我の手当を……」
「いや、いい。自分でできる」
いつもの優しい声だが、どことなく固い響きが混じった。
3249荒い息遣いが、辺りに響いていた。木々の合間を夜のしじまが満たしていて、白樺の木の隙間から見上げる空も、黒く塗りつぶされている。
息遣いは煉獄のものだった。すでに手負いのようだが、特に深い傷ではなさそうだ。息が上がっているのは、そのせいではないようだった。
すでに鬼は斬り倒されて、隠たちが後始末に忙しく動き回っている。
別の鬼を追っていた冨岡は、そちらを始末して戻ってきて、暗闇を見つめたまま立ち尽くす煉獄を見つけたのだ。
「炎柱様」
隠の一人が声をかける。煉獄は、我に返ったようにその者を見た。
「お怪我の手当を……」
「いや、いい。自分でできる」
いつもの優しい声だが、どことなく固い響きが混じった。
Tari
DONE義煉小説三部作第二弾!「木洩れ日」の続きです。火花 もう季節は夏の初めで、夕暮れが近いとはいえ、歩いていると汗が顎を伝う。
冨岡は鬼殺隊の任務で、夕暮れに他の隊士たちと落ち合う場所に向かい、徒歩で移動しているところだった。
落ち合う場所は山の中なので、少し前から、緩やかな勾配を登っている。そこら中で蝉が鳴いていてうるさいくらいだ。朱色の蜻蛉が一匹、近くを飛んでいる。いわゆる赤蜻蛉だが、暑さに弱いので、夏の間は涼しい山にいて、秋になると平地に降りていくという習性がある。
傍目には、彼の様子はいつもとまったく変わらないように見えるだろう。なにしろ、話すことも怒ることもほとんどなく、笑顔に至ってはほとんど誰も見たものがいないという男なのだ。
5769冨岡は鬼殺隊の任務で、夕暮れに他の隊士たちと落ち合う場所に向かい、徒歩で移動しているところだった。
落ち合う場所は山の中なので、少し前から、緩やかな勾配を登っている。そこら中で蝉が鳴いていてうるさいくらいだ。朱色の蜻蛉が一匹、近くを飛んでいる。いわゆる赤蜻蛉だが、暑さに弱いので、夏の間は涼しい山にいて、秋になると平地に降りていくという習性がある。
傍目には、彼の様子はいつもとまったく変わらないように見えるだろう。なにしろ、話すことも怒ることもほとんどなく、笑顔に至ってはほとんど誰も見たものがいないという男なのだ。
Tari
DONEついったフォロワさん100人のお礼のぎゆれんです!🔥さんが口がきけません。木洩れ日 いつも、この二人の間にはあまり双方向の会話がない。煉獄が何事か話しかけ、それに冨岡が聞こえないような返事をする。それだけだ。だいたいは、煉獄が一方的に喋り、笑い、納得して終わっているように見える。だが、特に不都合はないようだし、任務のときなどは互いに絶妙な間合いで動くことができる。
しかし今日は、ただ二人で座って、黙ったままで時間が過ぎていっている。煉獄は珍しく無言で、冨岡はいつものごとく無口で、間に置かれた二つの湯呑みと、初夏の風が渡るさわさわとした音だけが、辺りを満たしている。
数日前の任務で、煉獄は鬼に首元を掴まれて喉をやられてしまい、声が出なくなってしまったのだ。こればかりは喉を休めて回復を待つよりほかないので、自宅でおとなしくしていた。隊士への指示が出せないので、任務も数日は休みだ。そこへ、冨岡が訪ねてきたというわけだ。
2565しかし今日は、ただ二人で座って、黙ったままで時間が過ぎていっている。煉獄は珍しく無言で、冨岡はいつものごとく無口で、間に置かれた二つの湯呑みと、初夏の風が渡るさわさわとした音だけが、辺りを満たしている。
数日前の任務で、煉獄は鬼に首元を掴まれて喉をやられてしまい、声が出なくなってしまったのだ。こればかりは喉を休めて回復を待つよりほかないので、自宅でおとなしくしていた。隊士への指示が出せないので、任務も数日は休みだ。そこへ、冨岡が訪ねてきたというわけだ。