1862ki
PROGRESSお題「花屋」のやつ。さっきあげたやつ(曖昧な2色)の前の話。繋がってるからここにも置いておこうかと。
青色の恋文 夕暮れ時の道を歩く。腕を上げて大きく伸びをすると、先程まで丸まって惰眠をむさぼっていた身体がほぐれていく。横目で図書館の窓に映る自分を確認すると、いつも以上にぼさぼさになった頭が見えてぎょっとした。きっと部屋で寝かせてやったのだからと湊に猫の姿を撫でまわされたせいだろう。乱れた髪を手櫛で軽くなおしながら帰路を急いだ。
バーの雑用係が主な仕事であるオレの勤務時間は夕方から深夜にかけてになる。すなわち、今ここにいる時点でほぼ確実に遅刻だ。とはいえ、オレと葵を引き取った変わり者夫婦が、彼らが所有するビルで半ば趣味でやっているようなバーなので、多少出勤が遅れたところで葵に長めの文句を言われるぐらいなのだけれど。カウンターに立つ葵と違ってオレの仕事はそれほど多くない。そもそも主に期待されている仕事は酔っぱらいや厄介な客の相手であって、雑用はそのついでなのだ。
2103バーの雑用係が主な仕事であるオレの勤務時間は夕方から深夜にかけてになる。すなわち、今ここにいる時点でほぼ確実に遅刻だ。とはいえ、オレと葵を引き取った変わり者夫婦が、彼らが所有するビルで半ば趣味でやっているようなバーなので、多少出勤が遅れたところで葵に長めの文句を言われるぐらいなのだけれど。カウンターに立つ葵と違ってオレの仕事はそれほど多くない。そもそも主に期待されている仕事は酔っぱらいや厄介な客の相手であって、雑用はそのついでなのだ。
1862ki
PROGRESSお題「商店街」のやつ。うちの子が出てくるだけのぼんやりした小話。 #HCOWDCなんかこれでいいんかわからんくなってきたので。
一応終わりかな?と思ってるんだけど。
誰かたすけて……。
曖昧な2色 商店街のメインストリートを横に逸れ、少し進んだ先にある雑居ビル。その端にぽっかりと開いた空間に見える階段を降りると、ひっそりとたたずむバーがある。そろそろ夕暮れ時とはいえ、まだまだ明るい時間。バーの開店時間にはまだ早く、いつもは入り口を照らす洒落た電球も、今はまだ暗いままだ。
『obscure』と書かれたドアプレートのかけられた、営業しているのかも怪しいその扉を躊躇なく開き、佳輔は静かに店に足を踏み入れた。
「あ、佳輔サン。いらっしゃい」
カラリと音を立てたドアベルに反応し、カウンターの奥にいた黒髪の店員が顔を上げる。あげた口角を崩さない中性的な顔立ちのその店員は、磨いていたグラスを棚に置き、「なにか飲んでいく?」と席を指差した。
3825『obscure』と書かれたドアプレートのかけられた、営業しているのかも怪しいその扉を躊躇なく開き、佳輔は静かに店に足を踏み入れた。
「あ、佳輔サン。いらっしゃい」
カラリと音を立てたドアベルに反応し、カウンターの奥にいた黒髪の店員が顔を上げる。あげた口角を崩さない中性的な顔立ちのその店員は、磨いていたグラスを棚に置き、「なにか飲んでいく?」と席を指差した。
waremokou_2
DOODLE #HCOWDC 2お題は「おぼろ月」でした
登場人物
・吉川直幸
・中島修一
「月が綺麗ですね」
そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
「曇ってるけど」
だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
2725そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
「曇ってるけど」
だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
waremokou_2
DOODLE #HCOWDC お題は「嵐」でしたが、終わらなかったのでとりあえず投稿だけしときます
ガタン、と大きく鳴る雨戸に抱えた背中もまた小さく震えた。かぜの強い音は時間を経る毎に強さを増し続けている。ひどい雨が窓を叩きつけるように降り続いたせいで庭の花も、窓から見えていた桜の木も、あっという間にその花弁を散らしてしまっていた。それはまるで花が咲いたのを狙ったかのように吹き荒れるそれはあまりにも邪悪で、子供のような無邪気ささえ感じられる。ただ――自分はそんな春先にくる嵐が嫌いではなかった。
「これ、帰れそうかあ?」
腕の中のそれは俺の言葉にほんの少し躊躇いがちに頷いた。その返事がただの強がりだとわかっていたが、だからと言ってもう言葉は要らないはず。きっと数時間後には、彼は彼の兄に今日の帰宅が難しいことを連絡するだろう。腕の中でじっとする男はおそらく、俺が母親に今日の夕食にもう一人ぶんを追加するよう願い出ていることなど知らないだろう。
656「これ、帰れそうかあ?」
腕の中のそれは俺の言葉にほんの少し躊躇いがちに頷いた。その返事がただの強がりだとわかっていたが、だからと言ってもう言葉は要らないはず。きっと数時間後には、彼は彼の兄に今日の帰宅が難しいことを連絡するだろう。腕の中でじっとする男はおそらく、俺が母親に今日の夕食にもう一人ぶんを追加するよう願い出ていることなど知らないだろう。