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    #パトレイバー

    patlabor.

    いずみのかな

    INFOこの度ごとしの結婚アンソロジー『隊長! 結婚おめでとうございます!』に「ふたつの世界、ふたりの世界」という短編で参加いたしました。
    『隊長! 結婚おめでとうございます!』は8/21 インテ6号館Aて62a あいぼしさまにて頒布のほか通販もあります。詳しくはツイッターアカウント https://twitter.com/gotonagumo を参照してください。
    ごとしの結婚アンソロジー参加のお知らせ 疲れた。
     この祝いの席に相応しい言葉ではないが、辟易とした気持ちをどうにか飲み込んで、しのぶは壁に寄りかかった。
    今日の装いは丁寧に結い上げた髪に肌障りも素晴らしい白藍にレースのワンピース。友人の幸せを祝うのは喜ばしいし、今日の彼女は美しかった。白磁のようなウエディングドレスに長く伸びるアイボリーのレース。花婿の顔を見て頬を赤くする様子はしのぶの心も温かくする。六月の花嫁は美しい顔で教会で愛を誓い、初めてのようなキスを交わして、飛ばしたブーケはしのぶの手元へと落ちた。
     しかしだ。先ほどのように「普通の女の幸せ」を掴んだ同級生たちに、ほら早く、私たちと同じく普通に幸せになりなさいと次々と笑顔で言われると思うとため息も出る。いわく「私もいまの旦那に会うまでは結婚なんてしないと思ってたもの、あなたも大丈夫よ」。毎度言われるこんな言葉にもいい加減慣れたが、そもそもなにが「大丈夫」なのか、こういう人を見下す善意のことをなんて言うのだっけ。
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    いずみのかな

    DONEパトレイバー ごとしの ささやかな休息と、光の休日と
    かわいいひと。「そうね……、麻布温泉とか都内なら」

     夏の嵐のあと、朝日が燦燦と照る関越道で、日帰り温泉への誘いに対してそんな風に返答したときの後藤の、あからさまにがっかりした顔を思い出すたび、しのぶは何とも言えないむずがゆさと、同時にちょっとした優越感を覚える。
     全く眠れなかったのだと素直に告白してきたことと言い、普段の人を食った言動や、避難という名目で入ったラブホテルで時折見せた、あのいかがわしい雑誌を毎週愛読しているに相応しいオヤジそのものの態度とは裏腹に、中身は臆病で、遠慮がちで、ナイーブで、驚くことになによりも愛すべき紳士なのだ、後藤という男は。
     もしあの夜、電気を消してベッドとソファでそれぞれが身体を横たえた後。相手が寝ていないと悟っていながら、互いが様子を伺いに行ったとき、どちらかが思い切って振り返ったら、そして相手の身体に手を伸ばしていたら。恐らくは一夜の情熱は手に入ったであろう。ただし、それは本当に一夜だけのもので、その後二人はそれぞれに相手の熱を振り返ったとしても、二度となにも口に出さなかったはずだ。それこそ自覚した思いでさえも。
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    いずみのかな

    DONEパトレイバー ごとしの。「ランデブー」の続きです。 2005年の火星接近の際に書いたものです。 システムと確率、こことそこ、そして僕と君。
    レプリーゼ カタカタ……、と調子よく鳴っていたキーボードの音が不意に崩れたと思ったら、次の瞬間唸り声ともなんともいえない音が、低く部屋に響いた。 耳障りのよいものとは到底言えない種類の声だ。その調子から声の主の体調を正確に推し量ったらしい男が、
    「少し休んだらどうです?」
     と、モニタの向こうにいるであろう上司に声を掛けた。
    「ああ……うん……」
     相当疲れているのだろうか、返って来る返答も先程の搾り出すような声と大した違いはない。不明瞭な言葉を受けてどう思ったのか、男は一区切りするように小さく息を吐いて席を立った。
     二年前の春 、大学から警察学校を出て交番勤務を経て、まだ総てが手探りだった折り目正しい新人だった頃にこの部署に配属され、それ以来、目の前の男と東京はもちろん日本の津々浦々からロンドン、香港、ワシントンD.C.からベルリンまで、場所がどこであろうと仕事中は常に二人で行動してきた。仕事の濃さに付き合いの長さも手伝って、一見飄々としていて得体が知れないと称されているこの男の様子は、外の人間と違って大抵正確に推し量れるつもりなのだ。
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    いずみのかな

    DONEパトレイバー ごとしの この冬の「一番長い日」からもうすぐ半年。
    紫陽花 東京地検から外に出たとき、空は薄鈍とも薄墨ともつかない色に染まっていた。泣き出すまで間もなさそうだ。
     行儀が悪いと解っていながらも、しのぶは小さく舌打ちした。失敗した。今日は終業までならなんとか持つだろう、となんの根拠もなく思い込んで、今朝出勤時に傘を持って出なかったのだ。二課まで戻れば置き傘があるが、果たしてそれまで雨雲が待ってくれるかどうか。
     見上げた霞ヶ関の空は、官公庁の高層ビルに囲まれてひどく窮屈そうだった。横手には、暗い煉瓦色をした農水省のビルの壁が見える。目の前に見える国道一号線には車が溢れていたが、そのエンジン音はここまでは響いてこなかった。
     これからすぐに二課へと帰るなら、地下道から丸の内線に乗り、JRの駅に出ればいい。しかし、しのぶはこのあと警視庁に立ち寄り、その足で警察庁に出向き、最後に文部省にてちょっとした用事を済ませて、ようやく二課棟へと帰還することになっていた。この中でも曲者なのが文部省で、他の場所は営団地下鉄霞ヶ関駅で繋がっているというのに、このブロックだけは銀座線虎ノ門駅が最寄なのだ。だから、地下道を使っての移動に限界がある。どうしても地上を歩いていかなければならず、いざとなったら雨に濡れることも覚悟しなければならないだろう。
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    いずみのかな

    DONEパトレイバー ごとしの 後藤隊長の名推理? 話 トルコ石原石は5月10日の誕生石、だそうです。
    トルコストーンのなぞ しのぶは、入り口で思わず立ち止まり、目を何度か瞬かせた。
     後藤が手にしているものが、余りにも場違いで、さらに言うなら――とても失礼な言い分だとは思うが――彼と釣り合いが取れていなかったからだ。
     頬杖をついて、空いた手でつまんでいるのは、小さな指輪だった。
     見るからに女性用に作られている指輪には、リングの大きさに比べるとやや大きい石が乗っている。その上品な青い石の名をしのぶは知っていた。ダイヤやルビーなどと比べて高級でも高くもない石だが、素朴でありながらきりりとした印象をもつその宝石のことは、どちらかといえば嫌いではない。もっとも、宝石類全体にあまり関心が高くないのだが。
     後藤は手にしたそれをただぼおっとしたまま眺めている。例えば大事そうにつまんで、見ながら自然とにやけているのなら、同僚にもついにそういう女性が出来たのかとも思うし、逆に持て余し気味に持って思案にくれているようなら、なにか訳ありのものを押し付けられたのかとも思う。しかし、元々何を考えているか解らない顔ではあるが、それでもああもぼおっとしたままでただ指輪を見ているものだから、しのぶは少し困惑したのである。
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    いずみのかな

    DONEパトレイバー ごとしの
    成人式の記憶の話です。ほんのりとしたかいごと風味つき。
    もうここにいないあの人、そしていまここにいるあなた。
    雨音 冬の雨は冷たく、溶けかかった氷の針が肌に細かく刺さるような日だった。
     厚く垂れこめた雲は暗く、「成人の日」という言葉の幸先の良さとは裏腹だ。仕事始めのあととはいえ、まだ小正月が終わらない時期だけあって、都内はまだ人が満タンになっておらず、おかげで特科車両二課は年末から今日までめでたく開店休業状態である。
     見映えだけで警備にイングラムを引っ張り出そうという警備部のお偉いさんのバカな提案をしのぶと二人で潰した甲斐もあり、年末年始からこの十日ほどは、両隊ともひろみが出汁から取ったというお雑煮(沖縄は出汁で中身を煮たものをいただくんですよね、と話してくれたが、「中身」がなになのか後藤には見当がつかなかった)を食べたり、榊が箱買いしてきた缶のおしるこで暖を取ったりと、きわめてささやかに正月を味わったりしている。今日まで長く独身で、大学のころは家に寄りつかず、そして警察学校に入ると同時に実家を出てそして警察官になったあたりからは、社会人の礼儀として年賀状を出すことと姪にお年玉を渡す以外の正月行事と縁が無くなって久しい後藤にとっては、お雑煮もおしるこも、久しぶりすぎて舞台装置のように感じられるものであった。
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    いずみのかな

    DONEパトレイバー ごとしの それぞれの中の思い出と想いと思いなしと。基本的に二人がいちゃついてるだけの話です。また、当て馬要素があります。
    ドッヂボールの様にさ 大人の分別というのは、他人の領域に立ち入らないことだと、いつの間にか学んでいた。家族でも友人でも、誰もが必ず白線を引いている。見える見えないにかかわらず、踏み越えてはいけないし、重んじらなければならない。立場と距離が、社会を整理している。他人はもちろん、ましてや仕事の同僚や、そして上司に至っては。
     初めの顔合わせで挨拶されたときの上司の印象はどうだったろうか。五味丘はたまにその瞬間のことを思い出す。例えば夜勤明けのまだ人のいない街を一人帰っているときや、南雲に現場を任される程度の小さな事故の処理が終わった後などに。
     急増する犯罪に追われるように立ち上げられた部署への異動を志願したのは、誰かがやらないと行けない仕事だと理解し、またまっさらな部署なら思う存分仕事が出来、評価も得られるという野心からだ。実際揃った顔ぶれは機動隊などで揉まれた覇気溢れるものばかりで、新進気鋭のエリート部隊と呼ぶに相応しいものだった。そんなホープを率いることになる警部補は、背筋を伸ばし、眉間に力を入れ、気の強さを隠そうともせず、涼しげな声で鋭く檄を飛ばしてきた。いわく、日本初、いや、世界初のこの部署において、我々の働きがこれからの社会とレイバーのあり方すら変えるのだ、我々の部隊は選び抜かれた先鋭として、この重責を担い、そして見事期待に応えられる力を持つ、と。そして着任の挨拶のあと、「あなたが五味丘巡査部長ですね」と言われたときの声はいまも鮮明に耳に残っている。この穏やかな声のなかに、先ほどまでの熾烈さを収めているのかと。彼女もまた、戦って勝ち抜いてきた、一流の戦士なのだ。
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    いずみのかな

    DONE注意書きが必要だしな、という理由で押し入れにしまっていた掌編5本です。

    「アイドル」…記憶喪失なんですが、ひねりなくテレ朝でやってた『刑事ゼロ』ネタ
    「勉強のうた」…17年冬に発行した『早春賦』のおまけ
    「新しい季節へ、きみと」…『夏を見渡す部屋』の続編のつもりでした
    「プレイ ザ ゲーム」…ただの会話劇
    「くちばしにチェリー」…18年に流行った魔女集会ネタの亜流でした
    掌編詰め合わせアイドル「あなた、誰ですか」
     そう言われたときのぞっとした気持ちを今でも覚えている。
     自分が誰なのかを知らないのは、誰よりも自分自身だからだ。

    「久しぶりだな」
     いきなり背中を叩かれながらそう声を掛けられて、後藤は声のした方を振り向いた。
    「あ、……久しぶりです」
    「あら、犀川刑事部長、珍しいですね、わざわざ特車二課にお声を掛けられるなんて」
     すぐ横でしのぶが涼やかに嫌味を投げかけた。
    「南雲警部補は相変わらずだな」
     むっとする犀川をよそにしのぶは態度を変えず、
    「いえ、刑事部長におられましては、後藤警部補と大変懇意であると聞いていたので、つい」
     お二人の親交を邪魔するつもりはありませんが、と続けて、少しだけ顔を硬直させた犀川の様子を、後藤はじっと眺めていた。手の震え、眉毛の動き一つ一つ、言葉に少しだけにじむ感情。そうしたものを丁寧に拾ってから、ようやく後藤は二人の間に割って入った。
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    いずみのかな

    DONEパトレイバー ごとしの 2018年5月、スーパーコミックシティで発行した『ねこになりたい』に収録した一編におまけでつけた冊子の一部を足したものです。ごとうさんがねこみみです。
    とても自由に書きました。
    テンデイズワンダー 職場まで車で二十分、実家までは三十五分。築二十三年、三階にあるバス・トイレ別の南西向きの2DK。
     初めての一人暮らしには十分すぎる物件だ。
     しのぶはぐぅーと伸びをしてから、さて、と気合いを入れた。とりあえず今晩から寝られるように、ベッドだけでも整えなくては。

     引っ越しの理由はよくある話で異動により職場が遠くなったからで、異動の理由もまたよくあることに、女性というだけで疎まれて、そして追いやられたからだ。SPに憧れて警視庁を志し、努力の甲斐あり夢をつかみかけていた。それが、とある警視のあからさまなセクハラを告発したら、相手の代わりに自分が飛ばされた。まったくもってこの世界はろくでもない。
     いっそ辞表を叩きつけようかとまで思い詰めたが、すんでのところで思いとどまった。警察官として立派に職務を果たしてこそ相手への最大の復讐というものだろうし、セクハラを握りつぶすような部署ならこちらから願い下げというものだ。交番勤務のあと本庁に行ったものだから現場には慣れていないが、市民と直に触れ合えるのは警察官の仕事の原点と言える。そう思うと気持ちも前向きになってくる。そうやって向こうに見切りをつけた、つけてやった。
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    いずみのかな

    DONEパトレイバー。健全シリアス。一つの季節の終わりと、次の季節への眼差し。あるいは「友情というのは魂の結び付きである」。キン肉マン流に言い直すと「友情とは魂の結婚である」。
    後藤さんとしのぶさんの話ですが、ごとしのではありません。繰り返しますがごとしのではないので、ご注意ください。
    秋の気配、夏の終わり 入道雲が海の向こうからもこもこと沸いて来て、街を覆い尽くし雨をひとしきり降らせてから、一層の蒸し暑さを残して去っていく日々が続き、朝は蝉、夕方は雷でやかましかった夏も、気付けはもうその後姿を見せるようになっている。
     積乱雲の変わりに鱗雲やいわし雲が空を覆う日が少しずつ多くなり、吹き抜ける風は南から北に変わりつつある。ぎらぎらと輝きながら潮の香りをこれでもかと撒き散らしていた海も心なしか力無く見える、というのは単に見た人の心境の表れでしかないといえるが。
     隊長室の窓からは、草刈に精を出す隊員たちのにぎやかな話し声が聞こえてくる。ここ一週間は出動がかかることもなく、二課全体が落ち着いた雰囲気に包まれていた。牧歌的だねえ、と後藤は煙草をくわえながら思う。しのぶがいないことをいいことに、自席でのんびりと煙草の煙を吐き出しながらぼんやりと天井を見ていると、またうっすらとヤニに染まり始めた天井板が見えて、取り替えてまだ一年経っていないのに、と思わず苦笑してしまった。
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    いずみのかな

    DONEそれほど暗くはないですが少し不思議な死にネタです。苦手な方はくれぐれもご注意ください。
    どこまでも君の声を抱いて。
    Hello, my friends 最期はあっけなかったって警察の方が、ほらあの子、あこぎな職業だしそれでなくてもあの性格だから、畳の上じゃ死ねないよ、って軽口をよく叩いちゃってね……せめて苦しまなくてよかったですよ。
     そんな風に泣くこともなくつぶやく彼の姉の横顔を、しのぶは無表情で聞いていた、
     同僚であったのは五年と少し。自分が人より物事に対して敏感で極めて優秀であることを誰よりも疎んでいた男は、結局その能力ゆえにまた厳しい戦いの世界に呼び戻されて世界を飛び回り、そして最期の勤務地はロンドンだったという。スコットランドヤードに向かった帰り、たまたま降りたチューブの駅で起こった一度目の爆発テロの際、倒れてきた瓦礫に挟まっていた褐色の肌の少女を助けている最中、時間差で起こった二度目の爆発で、その少女や多くの逃げ惑っていた駅の利用者――職員、住民、そして多くの観光客と共に、男は逝った。お前なにやってるんだ、と咄嗟に制止しようとした同僚に叫んだ最後の一言は「放っておけないでしょ、見てみるふりなんてしたら、俺、帰国してあの人に顔向けできないじゃない!」だったという。
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